ミステリを堪能できる、豪華で貴重なアンソロジー 『十の罪業 RED』
2022/03/27
まずは帯を見よ!
プロフェッショナルたちの流儀
アイソラの街を揺るがす“87分署最後の事件”、
天才犯罪者ドートマンダー、殺し屋ケラーが一堂に会する
空前絶後のアンソロジー
私の読書欲のど真ん中を貫く豪速球のコピーである。さて本書『十の罪業 RED/エド・マクベイン編、木村二郎・田口俊樹・中川聖 訳/創元推理文庫』はどんなアンソロジーかというと、
巨匠マクベインの呼びかけに応え、名だたる人気作家が集結した書き下ろしアンソロジー──それが本書である。広義のミステリを書くこと以外は制約を受けず、各人が思うまま腕をふるった成果をご覧いただきたい。本巻には、奇しくも“87分署最後の事件”となったマクベインの中編に、不運な天才犯罪者ドートマンダー、殺し屋ケラーなど人気キャラクターが登場する全5編に加え、マクベインによる序文を収録した。序文=エド・マクベイン
<収録作品>
- 「憎悪」エド・マクベイン〈87分署〉
- 「金は金なり」ドナルド・E・ウェストレイク〈ドートマンダー〉
- 「ランサムの女たち」ジョン・ファリス
- 「復活」シャーリン・マクラム
- 「ケラーの適応能力」ローレンス・ブロック〈殺し屋ケラー〉
なのだ。
マクベイン、ウェストレイク、ブロックにはこれまでさんざん楽しませてもらっている私としては読むしかないでしょう(ドートマンダーじゃなくてパーカーを、ケラーじゃなくてローデンバーを、なんて言ったらわがまますぎてしかられちゃうよね)。
最初手にしたときは「分厚い」と思ったが、なんのなんの、あっという間に読み終えてしまった。どの作品もミステリとして楽しめるのはもちろんだが、全作中編ということで、プロットの作り方を学ぶとてもよい参考書にもなる。お手本にしてじっくり分析する必要あり。
以下、各作品について読後感を一言ずつ。
キャレラ、マイヤー・マイヤーらおなじみの顔ぶれがきっちり活躍してくれる「憎悪」は、87分署最後の作品としてあまりにも貴重だ。大事に読まないとばちが当たる。
「金は金なり」は、ドートマンダーとケルプが考えた、犯罪者らしからぬ最後の解決策にすくわれる。プロットがすばらしい。
「ランサムの女たち」のジョン・ファリスは初めて読んだが、うまいサスペンス。一気に読ませるが、ストーリーがちょっと平凡か。
収録5作品の中で私のベストは「復活」だ(poppenさんに全く同意)。19世紀半ばの米南部を舞台に繰り広げられる物語は圧巻。大河小説をギュッと真空パックしたような密度だ。文庫本約100ページで一人の人生を書き尽くす筆力には参りましたと言うしかない。
「ケラーの適応能力」は、いつものブロック節が冴えている。911の惨劇を改めて思い起こしつつ、プロの暗殺者の機微を噛み締めながらも、エンディングはやはりブロックだ。
原書は10作品のアンソロジー。これでまだ半分かよ、ともう満腹です(でもBLACKにはジェフリー・ディーヴァーが入っているしなあ)。
収録されている作家のみなさんは巨匠と呼ぶにふさわしい面々なので、かなりご高齢。すでにエド・マクベイン、ドナルド・E・ウェストレイクがお亡くなりになっている。『八百万の死にざま』をポケ・ミスで読んで興奮したころ、ローレンス・ブロックはまだまだ若かったのに。時間は流れているのだ。
(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社より献本いただきました)