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壮絶なる戦士の姿『ベルリン・コンスピラシー』

      2017/09/16

ベルリン・コンスピラシー / マイケル・バー=ゾウハー / ハヤカワ文庫NV
ベルリン・コンスピラシー (ハヤカワ文庫NV)

昔、冒険小説を読み散らかした一時期があったのだけれど、その中でなぜか手が伸びない領域があった。それはスパイ小説で、当時『エニグマ奇襲指令』『パンドラ抹殺文書』など面白(と評判の)本を連発していたマイケル・バー=ゾウハーも読まずに通り過ぎてしまった。

そんなバー=ゾウハーが15年ぶりの新作『ベルリン・コンスピラシー/マイケル・バー=ゾウハー/ハヤカワ文庫NV』を発表した。週刊ブックレビューで茶木則雄が取り上げていたこともあって、ここはひとつ巨匠初体験してみっか、となった。

 

激しいノックの音に深い眠りの底から引きずりあげられた。

アメリカの老実業家が、突然踏み込んできた警官に逮捕される場面から始まるストーリー。その後、次々と胡散臭い人物が入り乱れて、陰謀(conspiracy)、暗躍が渦巻いていく。
老実業家はロンドンに宿泊したはずなのだが、目が覚めてみるとそこはベルリンのホテル。拉致による不当逮捕を訴えるのだが、出てくる証拠はそれを否定する証拠ばかり。62年前に仲間とともに五人の元SS将校を殺した罪に問われ、窮地に追い込まれていく。そこで彼の救出に立ち上がったのはその息子。父の釈放を勝ち取るため奔走するのだが……。

読み出したらもうやめられません。バー=ゾウハーらしく、ユダヤ人問題を背景としているので物語のあちこちが重たく、スカッと爽快とはいかないのですが、そんなテーマをエンタテイメントでくるんでしまうところがさすがです。主人公の息子もカッコいいヒーローではないんだけど、そこも老練のなせる技といったところでしょう。そして、予期しないラストシーンには一瞬呆気にとられ、その後凄みが伝わってきました。命を賭して戦う戦士の姿。

ドキドキ、ハラハラを楽しみつつ、ナチスのユダヤ人大虐殺を風化させない、そしてネオナチの台頭に警鐘を鳴らそうとする巨匠の叫びが胸に届くエンタテイメントでした。

 - 小説, 読書