ストイックとはこういうことだったのか 『生の短さについて』
2017/09/16
『生の短さについて/セネカ/岩波文庫』を読んで、ストイシズムに触れてみました。2000年も前の著作です(遥か遠い過去のギリシャ哲人の著作を読めるというのは考えてみれば不思議だし、なんとありがたいことか)。当時のギリシャと現代の日本とでこれほど共通点が多いのだと気づかされます。2000年前に、すでに人類共通の在り方が思索されていたんですね。古典恐るべし、なのです。
本書には表題作の他、「幸福な人生について」、「心の平静について」の3編が収録されています。どれも貴重ですが、中でも「幸福な人生について」が素晴しいと思います。以下、短評です。
人生の短さについて
われわれは短い時間をもっているのではなく、実はその多くを浪費しているのである。
始めに意識しないといけないことは、時間と人生とは違うということです。セネカにとっては、忙しそうに働くことも時間の浪費にあたるんですね。無駄な娯楽に興じることは言わずもがな。だから本書は効率よく時間を使おうなどという時間術を説くものではありません。
じゃあ人生を手に入れるにはどうすればよいのか。まずは自分の手に時間を取り戻すこと。他人に時間を支配されない、自分の意思で時間を使うこと。そして過去と対話すること。先人たちの英知に耳を傾け、彼らの生きた時代を自己の時代に付け足すこと。
心の平静について
とても読みにくい1編。運命に右往左往しないために様々な心得が説かれているのですが、私にはまだ理解できていないようです。ただその中で一つ、とてもわかりやすい箇所を写しておきます。
特に避けねばならぬ者はいる。それは陰性で、何ごとにも嘆きを発する者たちであって、この者たちにかかっては、どんなことでも不平の種にならないものはない。たとえ誠実や好意は一貫していても心も安定せず、何ごとにも溜め息をつく仲間は、心の平静にとっての敵である。
幸福な人生について
ストア派の真骨頂、
幸福に生きるということは、とりもなおさず自然に従って生きることである。
そしてそれを徳とする。財産には一切執着しない、苦労に耐える、名声のためではなく良心に従って行動する、享楽とは無縁に生きる、などなど、セネカの説くストイシズムが実によくわかる1編です。
このような思想に対し、当時もかなり批判があったようですね。ストア派は、セネカは偽善者であるという非難です。偉そうなこと言って自分は大きな資産を蓄えているではないかと。これに対してはセネカもかなりむきになって反論している。最後には開き直っているのが面白い。
自分がどのように生活しているかではなくて、自分がどのように生活しなければならぬか、である。
本書を読めば2000年前の賢人の話を聴くことができる。さらに踏み込めば会話することができる。これぞ読書の醍醐味。ストイックに生きたい人も、ストイックなんてまっぴらごめんという人も、一度は読んでおきたい一冊です。