どうだい、みんな犯人に思えるだろ? 『災厄の紳士』
2017/09/16
D.M.ディヴァインの名前を知らなくて、何の先入観もなしに『災厄の紳士』を読み始めたのだが……、132ページを過ぎたあたりからハラハラしてきて途中でやめられなくなった。謎の提示、意外な事件、疑わしそうな面々、そして意表を突く結末、本格ミステリとしてとてもオーソドックスだけれども、よーく練られた語り口に魅了された。
物語は、イケメンでジゴロを生業とするネヴィルが、かつてのベストセラー作家の娘アルマをナンパする場面から始まる。アルマに取り入る目的は何か、このままサスペンスが続くのかと思いきや、話は一転、殺人事件の犯人探しへと進んでいく。
サスペンスからミステリへ、この中での謎の提示が実にうまい。アルマを誘惑するのはなぜか、アルマの父親ヴァランスは何を隠しているのか、ネヴィルに指示を与える共犯者は誰か、そして殺人犯は。複数の謎が折り重なって厚みを出している。いくつもの?に気を取られながら読み進めていくことになる。
一方で、ミステリの核心となるフーダニットに対して、登場人物たちの誰もかれもが実に怪しい。正面切って怪しいのではない。読者の気持ちを指でくすぐるようで、「どうだい、みんな犯人に思えるだろ?」とディヴァインのニヤニヤする顔が目に浮かんでしまう。ミステリを読む最大の楽しみとしてたっぷり翻弄させられたいところだ。
本作は1971年の作品、味わい深いミステリを掘り起こしてくれた東京創元社さんに拍手である。秋の夜長、安心して楽しめる正統派ミステリとしてお勧め。既刊のディヴァイン作品、『ウォリス家の殺人』、『悪魔はすぐそこに』も試してみようかな。
(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社さんより献本いただきました)