『偽原始人』 私にとっての名作 ―2
2022/05/01
はじめて読んだ井上ひさしが『偽原始人』だった。手元の本の奥付を見ると昭和51年5月31日第1刷とある。30年以上昔。夢中になった小説らしい小説としてもはじめだったと思う。
この作品は、昭和50年、朝日新聞に連載されていたもので、当時欠かさず読んでいた。新聞の連載小説なんてのを読んだのは、後にも先にもこれだけ、この点でも私にとっては記念すべき作品なのだ。それだけ子供心に面白かったのだろう。連載が終了して無性に寂しかったように覚えている。連載小説が本になるなんて知らなかったから、新聞広告でこの本を見つけたときにはうれしくなって、飛んで買いに行った。そしてドキドキして読み直した。
物語は池田東大(とうしん)、高橋庄平、大泉明、三人の小学生の冒険である。学歴至上主義の親から受験勉強のプレッシャーをかけられる毎日を過ごす三人(わが子に東大(とうしん)という名前をつけるってありそうで怖い)。彼らのかつての担任容子先生がそんな母親たちから吊るし上げにあい、ついに自殺を図る。大好きな容子先生の敵を打とうと、親たちへの復讐を決意する。その復讐とは、毒殺。綿密な(?)計画を立て、行動を起こす三人。学習塾に通っているふりをしてサボる、家出をする、誘拐事件をでっちあげる、にせの精神病者になりすます。小学生として精一杯の抵抗を示す。しかし世の中は……。
これを読んだ当時は、三人の反抗を夢中で応援してたんだろうなあ。今思えば、本書は教養小説である。小学生たちが世の中の残酷さや醜さに直面し、大人の社会に引きずり込まれていく。違和感を抱えたままもがく、でもどうにもなりそうにない。なぜ大人は馬鹿げたことを繰り返すのか。子供の単純な発想がどうして通用しないのか。そんな子供の通過儀礼と成長の物語。今頃、40歳を過ぎた東大たちはどんな大人になっているのだろうか。
本書、残念ながら今は絶版になっているので、古本屋か図書館でどうぞ。参考までに新潮文庫版のamazonリンクを貼っておきます。
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