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復刊リクエスト第1位は伊達じゃない 『幽霊の2/3』

      2017/09/16

復刊リクエスト第1位、多くのファンの希望がかなったとなれば読まねばなるまい。『幽霊の2/3』はヘレン・マクロイの長編15作目、1956年に発表された幻とも言える名作だ。

本作、二通りに楽しめた。一つは本格ミステリとして、もう一つは出版界の楽屋ばなしとして。

複雑な事情があって急遽開かれたホームパーティ。出席者は超人気作家エイモス・コットルとその妻、エージェントのヴィージー夫妻、出版社社長ケイン夫妻、などなど。余興で始まったゲーム“幽霊の2/3”の最中、突如エイモスが毒物によって絶命する。自殺か他殺か、他殺ならば犯人は誰か、どうやって毒を飲ませたか、と進むかと思いきや、物語は違う方向へ進んでいく。パーティにたまたま招かれていた精神科医ベイジル・ウィリング博士が事件の解決に乗り出すと、次々に隠された真実が読者の前に披露される。謎のベールが一枚々々とはがされ、最後に核心に到達する過程はなかなかスリリング。ウィリングがこともなげに謎を解いていくので、「おいおい、なんでそんなことが解かったんだよ」と突っ込もうとすると、ちゃーんとその前にヒントが書かれているのだね。これが本格たる所以。さて、ウィリングが暴く謎、そして結末は読んでのお楽しみ。

この作品、文芸出版界を舞台として書かれているので、作者による内輪の話としても読みどころがある。ミステリ、評論に関するちょっと自虐的な台詞がちりばめられていて面白い。例えば、

ミステリ小説は本のうちに入らんよ、ヴィーラ。あんなものは誰にでも書ける。大工や配管工と似たり寄ったりの仕事だ。わたしは前々からミステリ作家に印税を支払う必要はないと言ってきた。大工や配管工だって印税はもらわんだろう。

きみは文芸評論の病的性質が理解できていないようだね、フィリッパ。批評家は決まって病んでいる。文学を壊すことで食ってる文学者だからね。自分の巣を汚す鳥のようなもので、一種の倒錯だよ。……われわれは生計を立てるために生体解剖を余儀なくされる動物愛護者みたいなものなんだ。

てな感じ。
ついでに小説の書き方指南も。

書いたことを実際に体験している作家など、ほとんどおらんよ。そこが玄人と素人の差だ。素人はじかに体験したことでないと書けないが、プロの作家はどんなことでも書ける―それが商売だからね。描写が細部にいたるまで残らず正確かどうかなど誰も気にしない。肝心なのは、平均的な作家よりも専門知識の乏しい一般読者に本物らしく見せることだ。よって小説家が重視すべきは事実ではなく感情だ。読者が心のなかの事実にどう反応するかなんだ。その鍵を握るのが想像力だよ―事実にもとづく知識よりはるかに貴重と言えよう。

なるほどなるほど。

味のあるミステリ。兎にも角にもうれしい復刊だ!

(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社さんより献本いただきました)

幽霊の2/3/ヘレン・マクロイ(駒月雅子 訳)/創元推理文庫
幽霊の2/3 (創元推理文庫)

 - 小説, 読書