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化石ってこんなに美しく貴重なものだったんだ 『ザ・リンク―ヒトとサルをつなぐ最古の生物の発見』

      2017/09/16

自分は霊長目ヒト科に属する生物だったんだよなあ。『ザ・リンク―ヒトとサルをつなぐ最古の生物の発見』はそんなことを思い起こさせてくれる。いやー面白い、美しい、そして勉強になった。本書は、ヒトの遠い祖先に当たるかもしれない貴重な化石「イーダ」の物語をベースに、霊長類の進化、古生物学を丁寧に解説してくれる科学ノンフィクション。2009年、ダーウィン・イヤーにふさわしい興奮ものの読み物だ。

霊長類の進化は謎につつまれている。霊長類には6つの主要な系統がある。原始霊長類、キツネザル類、メガネザル類、オモミス類、アダピス類、真猿類(ヒトはここに含まれる)だ。これらがどのように分岐、進化したのかが不明なのだ。中でも一番の興味はヒトを含む真猿類がどのような軌跡をたどって進化してきたのかということだが、それがどうもはっきりしない。真猿類はメガネザル類から派生した、いやキツネザル類からだ、など現在4つの仮説があるのだが、どれも決定打がない。自分たちの祖先の位置づけが宙ぶらりんなのは気持ち悪いのである。

真猿類ともう一つの類との共通の祖先と思われる化石、すなわち今まさに分岐しようとしている化石が見つかれば、仮説を推す有力な証拠となるのだが、そんな都合の良い化石はそうそうころがってはいない。第一、霊長類の化石自体が決定的に少ない。

ここで「イーダ」が登場する。イーダは4700万年前の始新世に生息していた霊長類の化石。ドイツのメッセル・ピットから出土し、その保存率は95%、内容物まで残っている。ついこの間絶命したのではないかと思わせる奇跡的な保存状態だ。表紙や口絵を飾るイーダの写真を眺めるだけで美しさが伝わってくる。現物を見ればそれどころではなくなるだろう。そして彼女は原猿類と真猿類との両方の特徴を持ち合わせているようで、ひょっとすると人類最古の化石であるかもしれない。彼女が何を明らかにしてくれるのか。それは今後の多くの調査、長い議論が必要だ。しかし何かを語りかけてくれるはずで、霊長類進化を解明する現存唯一の奇跡態な化石がイーダなのである。

イーダには、化石愛好家が私蔵していたものをオスロ大学のフールムが100万ドルで買い取って世に出したミステリアスな一面もある、このあたり出生の過程が物語性を高めている。

本書は構成がよく、翻訳もうまくてとても読みやすい。霊長類の進化のみならず、温暖化、寒冷化といった気候変動についての詳しいの科学情報も与えてくれる。超おすすめの一冊。

ザ・リンク―ヒトとサルをつなぐ最古の生物の発見/コリン・タッジ(柴田裕之訳)/早川書房
ザ・リンク―ヒトとサルをつなぐ最古の生物の発見

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