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ミステリのためなら探偵も犠牲にしちゃう 『ジャンピング・ジェニイ』

      2017/09/16

1920~30年代、パズラーミステリが一気に隆盛を極めた黄金期、今や古典となった作品が噴出し、大作家が名を連ねる。竜虎飛車角であればクリスティ、クイーン、三羽烏ならばそこにカーが加わり、四天王ならさらにバークリーが入り込む。

かどうかはさておいて(クロフツはどうなんだ、セイヤーズの名がないのはけしからん、などと非難を浴びそう)、今回紹介する『ジャンピング・ジェニイ』は1933年の作品。そんな黄金期真っ只中の一作です。

屋上の絞首台に吊された藁製の縛り首の女──小説家ストラットン主催の〈殺人者と犠牲者〉パーティの悪趣味な余興だ。ロジャー・シェリンガムは、有名な殺人者に仮装した招待客のなかの嫌われもの、主催者の義妹イーナに注目する。そして宴が終わる頃、絞首台には人形の代わりに、本物の死体が吊されていた。探偵小説黄金期の雄・バークリーが才を遺憾なく発揮した出色の傑作!

グイッとひねりを効かせた異色のパズラーミステリと言えるでしょう。絞首台で絶命していたのはイーナ。警察の捜査が始まると、彼女は自殺したのか、それとも他殺か、が焦点になるんですね。読者には自殺の可能性が極めて高いことを知らせているのですが、現場に居合わせたミステリ作家で名探偵のシェリンガムは他殺の証拠を発見します。この辺から少々話がややこしくなってきて、他殺を確信したシェリンガムは、その犯人を推理した上で、あろうことかその犯人を庇う行動に出ます。自殺に見せかける工作を始めるのです。アリバイ作りや証拠隠滅、なかなかうまく進まないそんな探偵のドタバタを見ながら、読者は滑稽な探偵をニヤニヤと見下すように読み進めることになります。そして、最後に提示された真実に至って……。

ニヤニヤしていたのは実はバークリーだったんですね。作家にとって名探偵は貴重なものなのに、それを道化の駒にしてまでミステリ作家としての力を見せつけてやろうとする、かなり野心的な作品と読めました。そんな常識をかなぐり捨てた作品が、1933年すでに書かれていたことが驚きです。ミステリ中級者にお勧めの一冊かな。

(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社さんより献本いただきました)

ジャンピング・ジェニイ/アントニイ・バークリー(狩野一郎 訳)/創元推理文庫
ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)

 - 小説, 読書