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『文庫解説ワンダーランド』文庫解説の世界にはお宝が埋れている

      2017/11/13

これを読んだら文庫はまず巻末から、ってなること請け合いである。

巻末の解説は文庫の付録、読者サービスのためのオマケである。しかし、人はしばしばオマケが欲しくて商品を買う。

海洋堂のフィギュア欲しさにチョコエッグ買うようなもんだ(←昔話)。

漱石、川端、太宰を皮切りに、新旧、国内外、古典からブーム本までひっくるめて39作品のオマケを、あるときは称賛、あるときは糞味噌。めくるめく世界が披露され、タイトルの『文庫解説ワンダーランド』に偽りなし。

本書を書くそもそものきっかけは、太宰の『走れメロス』だそうだ。粗っぽくまとめれば、「こいつら――解説執筆陣のことね――『走れメロス』読んでないんじゃないの?ちゃんと読んでから書けよ。作品と格闘しろよ」なのである。どれもこれも、あまりにも薄っぺらで不甲斐ない解説に唖然とし、落胆するのである。じゃあ他の解説ってどうなってんだ、というところから文庫解説の解説に手を染めていく。

どのページをめくってもやたらめったら痛快。あまり中身をばらすのは反則だと思うので、著者が見事と評する解説の中から一例だけ紹介してみる。
伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』(新潮文庫版)の関川夏央と、同じく『女たちよ!』(新潮文庫版)の池澤夏樹の解説について。二人の解説が的確に三つの要素ーー理想的な読者の立ち位置、実用書としての遇しかた、現在の視点から当時を振り返る視線ーーを備えていることを指摘した上で、

二冊の本の解説は、本文にも負けない良質なエッセイとして読めるものに仕上がった。一粒で二度おいしい文庫。著書と解説の幸福な関係である。

と絶賛。
ついでに反対に酷評も一つ上げておくか。講談社青い鳥文庫版『リトルプリンセスーー小公女』の曾野綾子の解説。

貧しさは自己責任論に還元され、植民地主義は半ば肯定され、物語の美質はなべて<今の日本人が失ってしまった実に多くのみごとな人の心>と解釈される。『小公女』までダシにするんだもんな。困ったもんだな、曾野綾子。

嫌いだからって、あんたもここでバトルするか、とは思うけど、こんなスパスパっと切れ味よい評がずらっと並んでいる。

そもそも文庫解説を誰のために書くのか。読者のために決まってるだろう、なんて当たり前のことが実は世の中まかり通っていない。著者のための解説、さらにひどいのになると自分のための解説ってのもある。そんな手厳しい指摘をそこかしこにちりばめた最後に、浅井良夫の「文庫解説=焼肉の後のペパーミント・ガム説」を採用していて、こちらの肩の力を抜いてくれるところなんかもさすがに上手い。

著者、斉藤美奈子は文芸評論家でリベラル系論客。以前読んだ『文芸誤報』にうならされて以来、数少ない、頭のいいリベラルとしてけっこう厚い信頼をよせている。普通の文芸評論では飽き足らなくなって、評論(文庫解説はある意味評論)を評論しちゃうという新たな領域を開拓したといえるだろう。

さて、斉藤美奈子が改めてわざわざ文庫解説を解説するということは、解説に何を書いてよいか、どう書いてよいかわからない、という解説者が多いというのが実態だったのね。そんな文芸界のあらが見えたのも愉快だった。

文庫解説ワンダーランド (岩波新書)

文庫解説ワンダーランド (岩波新書)

  • 作者:斎藤 美奈子
  • 出版社:岩波書店
  • 発売日: 2017-01-21

 - 人文, 読書