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最高に愉快な哲学の話『知性の限界』

      2017/09/16

知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 / 高橋昌一郎 / 講談社現代新書
知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)

『理性の限界』がむちゃくちゃ面白かったから、その続編『 知性の限界―不可測性・不確実性・不可知性/高橋昌一郎/講談社現代新書』にも期待は膨らみまくるのだ。前作を凌ぐたのしさに、もうまいったとしか言いようがない。

本書では、人間が哲学(科学も自然哲学ね)と称してこれまで考えてきた様々な証明が繰り広げられる。ウィトゲンシュタイン、ポパー、からファイヤアーベントまで、さらには地震予測に絡めたべき乗則や複雑系、はたまた「神の存在証明」「人間原理」まで、披露される話題はてんこ盛り。もう満腹。

前作と同様、多彩な登場人物が繰り広げるディベート形式で、舞台を観ているような感覚で読み進めることができる。冷遇されるカント主義者も健在。フツーの人たちの言葉がフツーの発言をしてくれるので、フツーの読者の感想もまさにこんな感じではないだろうか。

それにしても人間は、よくこんなに多彩な「証明」を思いつくものですね。

本当に人間って、信じられないくらい奇想天外なことを思いつくものですね。

『理性の限界』が「もうここまでしかできません」という限界だったのに対し、本書は「今のところ人間はここまで考えました」という限界。だから、『知性の限界』は今後もまだまだ広がっていくことになるだろう。

私にとっての大収穫はウィトゲンシュタインを知ったこと。

要するに、ウィトゲンシュタインは、過去の「哲学的問題」は「言語的問題」にすぎないと、一刀両断のもとに切り捨てたわけですな。(中略)『論理哲学論考』が導くのは、「語りうることは明らかに語りうるのであって、語りえないことについては沈黙しなければならない」という有名な結論なのです。(中略)彼は、「すべての哲学的問題」が、言語から生じる疑似問題にすぎないと喝破しているのです!

のっけからこんな身もふたもない話を持ち出して、その後わんさかと「語りえないこと」を語っていくわけだが、一方で意味がないと言われても、面白くてたまりません。

本書を味わう下準備として、これまでにここで紹介した本の中で以下のようなものが少なからず役に立った。ついでながらご紹介。
すぐびん|ちょっとだけデカルトに触れてみた 『方法序説』
すぐびん|脳の中にある宇宙 『宇宙創成』
すぐびん|神様は「何か」のメタファーなのだ 『物理学と神』
すぐびん|未来は予測不可能 『歴史は「べき乗則」で動く』
すぐびん|エピローグが胸を打つ 『非線形科学』

最近は虫歯菌が伝染するとかで敬遠されているけど、以前はお母さんが口の中で噛み砕いたものを赤ちゃんに食べさせたりしたものだ。本書はまさにそんな感じ。巻末に参考文献リストが挙げられていて、その数94件。これらを咀嚼して飲み込みやすくしたものを、私たちに与えてくれるのだから。これを贅沢と言わずしてなんと言おうか。

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