おじさんがラノベに涙した 『女子高生、リフトオフ!』
2017/09/16
女子高生、リフトオフ!―ロケットガール〈1〉 / 野尻抱介 / 富士見ファンタジア文庫
おお、なんてこった。富士見ファンタジア文庫を読んで、いい歳したおっさんが涙しちまったぜ。
運命的のいたずらか、あれよあれよと宇宙飛行士に仕立て上げられた女子高生、森田ゆかりが宇宙へ飛び出す物語。次から次へと待ち受ける障害を、知恵と度胸で乗り越えていく小気味良い冒険小説で、ライトノベルっぽく萌え系描写を散りばめながらも、結構ハードなSF、科学小説となっている。著者自身がインタビューで、
ヤングアダルト系のときは、できるだけ読者へのもてなしを良くするように心がけます。冒頭でキャラを立て、興味をひく事件を起こし、難解な言葉はひかえめにして、最後までキャラクターの物語の上にSF性が載るように持っていこうとします。ヤングアダルトに限らず、SF小説はすべてそうあるべきだと思いますけども。
と語っている。なんのなんの。“難解な”言葉は控えられているのかもしれないが、ロケットや宇宙飛行に関するディテールはテクニカルタームをふんだんに使って描写されている。あげだせばきりがないが、例えばゆかりが搭乗するカプセル内部の様子は次のように描かれている。
それは船というにはあまりにも小さく、宇宙服の延長と考えたほうがふさわしかった。鼻先四十センチに計器盤があり、その横にペリスコープの投影面がある。右側面にはスイッチがずらりと並んだヒューズパネル、左側面には手動操作のバルブ類がある。右手のアームレストの先には姿勢制御用操縦桿、左には緊急脱出用のアボート・ハンドルがある。
すごい。必要にして充分な書き込み。“投影面”である。パネルではなく“ヒューズパネル”である。ハンドルではなく“アボート・ハンドル”である。
ついでに、ゆかりが宇宙へ飛び立つ前、
まず、さつきに浣腸をほどこされる。
のだ。もうまいった。
はじめに「涙しちまった」と書いた。読み終えるとじんわり暖かい気持ちが込み上げてくる。その原因は、森田ゆかりの活躍もさることながら、彼女を取り囲む大人たちがあまりにも真面目に、懸命に仕事をしていることにある。子供向けだからといって大人を馬鹿にしない、軽くあしらわない著者の姿勢に拍手だ。
『ロケットガール』はおじさんが充分楽しめる富士見ファンタジア文庫(普段書店でその棚の前に立ち止まることすらないわな)なのだ。
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