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それがデザインの本質だ 『<使い勝手>のデザイン学』

      2017/09/16

〈使い勝手〉のデザイン学 (朝日選書 844)記事のタイトルにある「それ」とは何なのかはこの記事の最後に書くことにする。

ペトロスキーにかかると巷に溢れている「物」の背景になんと多くのアイデアや物語が隠れているのかと驚かされる。『〈使い勝手〉のデザイン学/ヘンリー・ペトロスキー/朝日選書』を読み進めると、次々と興味をそそられる事実とその語り口に、まいったとうなってしまうのだ。

著者の話は多岐にわたり、尽きることがないかのようだ。コップ、浄水器、ライト、車のカップホルダー、プリンター、スーパーマーケット、レジ袋、調理器具、ダクトテープ、椅子、ドアノブ、キー配列、歯ブラシ、家に階段。彼に言わせればレストランで食事する客もデザイナーなのだ。ありとあらゆる物が相反する要求をバランスさせ、最良の妥協点を求めて工夫されつくしている。本書を読めば、電話と電卓とでキー配列がなぜ違うのかがわかるし、理想の(?)スーパーマーケットの陳列レイアウトがどのようなものであるかに気づかされる。

最後に少し長くなるが、デザインの本質である「それ」とは何か、引用して記しておく。とてもいい文章だ。

世に完璧なデザインなどないのかもしれないが、それでも良いデザインについて語ることはできる。みごとな解決策に感服し、巧妙な装置の真価を認め、うまい発明品を享受することができる。それらは不完全かもしれないが、ものの世界にたいする人間の頭脳の勝利を象徴するものであり、熟達したデザイナーの偉業は、みんなの精神を高揚させる。新記録を達成する棒高跳び選手は、その次の高さのバーを跳び越えられなくても、それでも優勝者だ。彼は、助走のしかたやポールのつっこみかた、自分の身体が描く円弧を頭のなかに思い描き、そのとおりに実行したのであって、少なくとも当分のあいだは、彼の自己ベストが全体の最高記録である。わたしたちは、彼が成し遂げたことに拍手を送る。いつの日か、彼や誰かほかの選手が、より高いポールや跳躍技術を編み出して、この記録を塗り替えるかもしれないと期待しながら。それがデザインの本質だ。

 - 自然科学・応用科学, 読書