苦さが旨い 『人生を変えた時代小説傑作選』
2017/09/16
文春文庫からそそられる一冊が登場した。『人生を変えた時代小説傑作選/山本一力・児玉清・縄田一男 選/文春文庫』がそれ。時代小説を愛するお三方の選りすぐりの短編が2編ずつ、計6編が収められている。超有名処の作者が名を連ねる、なんとも贅沢なアンソロジーだ。最近少し時代小説にご無沙汰していたので、ナイトキャップ代わりに愉しんでみようかと。
<収録作品>
- 菊池寛「入れ札」
- 松本清張「佐渡流人行」
- 五味康祐「桜を斬る」
- 藤沢周平「麦屋町昼下がり」
- 山田風太郎「笊ノ目万兵衛門外へ」
- 池宮彰一郎「仕舞始」
男くさい6編である。そしてどれもこれも苦い。卑怯な自分に苛まれる姿であったり(「入れ札」)、自分が為した悪行非道を突きつけられたり(「佐渡流人行」)、死から生への大転換の苦しみであったり(「仕舞始」)。
中でも「笊ノ目万兵衛門外へ」は凄まじい。正義、信念を貫き通す同心がたどる非業の人生とその最期。おれが何をしたというのか。何故こんな目に会わねばならないのか。神も仏もないのか。震えた。苦すぎる。苦いものが人生を変える、とういうことなのかもしれない。
ちなみに、収録作品に用いられるこれらのテーマは、現代小説でも書けるだろう。しかし、時代小説の形をとることで、より精製されるように感じる。時間の隔たりのせいだろうか。「侍」を美化した先入観によるものかもしれない。
時代小説の枠を超えて、存分に苦みを味わえるはず。超おすすめの一冊!