資本主義に翻弄され続けるしかないのかねえ 『歴史入門』
2017/09/16
歴史入門 / フェルナン・ブローデル(金塚貞文 訳) / 中公文庫
千夜千冊連環編で松岡氏が『物質文明・経済・資本主義』を取り上げていて興味が湧いた。だがこれがあまりにも大著(全6巻、各2段組 400ページ強)なので、「面白そう」という予感だけではとても手を付ける勇気はない。それならばと、そのダイジェスト版『歴史入門 /フェルナン・ブローデル(金塚貞文 訳)/中公文庫』を試してみた。こちらだと文庫145ページと一気に取っつきやすくなる。
本書の内容、『歴史入門』という邦題からはかけ離れている。原題は『La Dynamique du Capitalisme(資本主義の活力)』であって、歴史学(史観)ではあるものの、主題は資本主義とは何かを説いたもの。決して「歴史入門」という生易しいものではない。しいて言えば「アナール学派入門」とでもなろうか。僕が充分理解できたとは到底思えないのだけれど、頭の整理だけはしておこう。
資本主義に入る前に、ブロデールの歴史学を理解しておく必要がある。ブロデールは一般的な歴史学で考察される事件や出来事、特別な人物には重きを置かない。人間の日常性―人口であったり何を食べ何を着、要は意識することなく営んでいる暮らし「物質生活」―に立脚している。時間的にも空間的にも広範囲を俯瞰するものだ。時間、空間は連続であり、歴史を支えているのが個々の人なのだから、このような立場は違和感なく受け入れられるのではなかろうか。
そのような歴史研究、すなわち14世紀以降の人々の生活を丹念に拾い上げ、都市や経済の推移を追っていくと、大きな潮流の末に資本主義とは何かが見えてくる。粗っぽく言えば、経済活動は3つの層からできていて、土台をなす「物質生活」、その上でものを取引する「市場経済」、そして頂点に「資本主義」が君臨する。この「資本主義」っちゅうのは、常に「市場経済」を出し抜こうとし続ける。より美味しいものを(つまり高利潤)を探し求め、頂点を目指し続けているものだということ。
ここからは勝手な解釈。資本主義は必然なのである。「物質文明」-「市場経済」-「資本主義」という階層があるわけで、私たちが暮らしている限り、今の資本主義は登場すべくして登場した。そしてこの「資本主義」はとても強固で巧妙なので、これに取って代わるシステムは今のところ見当たらない。当然ながら「資本主義」は資本家が操っている。僕のような一般人は「市場経済」に生きていて、「資本主義」には参加できない。ゆえに、人々は「資本主義」に翻弄され続けるしかないというのが歴史の必然となる。ブロデールはこんなことを言いたかったのかどうか定かではないが、僕にはそう読み取れた。寂しいと言えば寂しい結論ではある。