この安定感はさすがだと思う、が 『ウォッチメイカー』
2017/09/16
ウォッチメイカー / ジェフリー・ディーヴァー(池田真紀子 訳) / 文春文庫
おとそ気分での読書はひたすら面白いエンタテイメントに限る。そこで、この正月休みに選んだのは『ウォッチメイカー/ジェフリー・ディーヴァー(池田真紀子 訳)/文春文庫』。なんといってもジェフリー・ディーヴァーには安定感、信頼感がありますからねえ。
本作はリンカーン・ライムシリーズの第7弾。今回ライムが挑戦する犯罪は……、ミステリ系の内容紹介は難しいので裏表紙から拝借。
“ウォッチメイカー”と名乗る殺人者あらわる! 手口は残忍で、いずれの現場にもアンティークの時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を10個買っていることが判明、被害者候補はあと8人いる――尋問の天才ダンスとともに、ライムはウォッチメイカー阻止に奔走する。
緻密で冷酷なウォッチメイカーの追跡とその傍らで明るみに出た警官汚職事件とが絡み合っての二重三重のどんでん返し。ディテールも充実していて、いかにもディーヴァーらしい作品で、予想どおり楽しめる一冊。なんせ2008年版の『このミス』1位だからね。
「楽しめたんだからそれで充分でしょ」とは思うのだが、ディーヴァーに対する期待値の点からちょっと高望みの感想を。
まず一つめ。メインキャラクタのライム、サックスはもとより、尋問のエキスパートである捜査官ダンス、サックスの部下プラスキーなど登場人物はとても魅力的。しかし彼らは凄すぎる。失敗することなど考えられない完全無欠の捜査官なのだ。どんな証拠も見逃さない、かすかな手がかりから本質を突き止める。ダンスに至っては人の心はすべてお見通しなのだ。ちょっとやりすぎじゃね、って感じ。世のミステリはそんなもんだと言っちゃえばそれまでなんだけどね。
二つ目。本でミステリを読むという形の宿命で、「そろそろどんでん返しがくるね」と察してしまう。ディーヴァーの作品で言えば、全体の1/2、3/4、7/8あたりで3回ひっくり返ることになる。もちろんどうひっくり返してくれるかが作家の本領発揮なわけで、ディーバーは予想を超える展開をしてくれるのは重々承知しているが、こちらが「どんでん返しモード」に入ってしまっちゃってるのが残念だ。
あえて文句をつけたような贅沢な感想になってしまったな。