DNAで受け継がれないもの 『最後の授業』
2017/09/16
『最後の授業 ぼくの命があるうちに』を読むことは、おこぼれに与るようなものである。それも最高に貴重なおこぼれに。
親は子供に伝えたいことがたくさんある。この伝えたい願望は母親より父親の方が強いように思う。母親は日々伝えているからなのだろうか。父親は自分が伝えることにとても価値があると自惚れているのだろうか。
伝えたいこと、それは自分(父親)がどんな人物であったかということかも知れないし、様々なTIPSかもしれないし、高尚な人生訓かもしれない。生物として伝えるべきことはDNAで伝えた。DNAで受け継がれないもの、人間として伝えたいものがあるということ。
親から子へ伝える、普遍的な願望だからすでに多くの著作物がある。パッと思いつくだけでも、
『父から息子への手紙/チェスターフィールド』
『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙/G・キングスレイ・ウォード』
『会社員の父から息子へ/勢古浩爾』
などがある。やはり父から息子へ、が多い。
私が今読み進めている『フランクリン自伝』もその類のようだ。拡大すれば、オバマ大統領の『マイ・ドリーム』もそう読める。ただしこれは、親が伝えてくれなかったことを求める子供のクエストがテーマだが。
子供に伝えたいこと、それは供に過ごす時間に伝えればよい。しかし、その時間を奪われたとしたら。幼い子供を残して死を迎えなければならなくなったときどうするか、何をすべきか。その答えがこの講義だ。
著者(講師)であるランディ・パウシュ氏は、カーネギーメロン大学教授。46歳にしてあまりにも短い命の時間を宣告される。残された時間を最大限に活用してメッセージを送る。最終講義を通してのメッセージを。彼が出した答えは若くして命を奪われる者に限ってあてはまるものではない。死を迎える人間、すなわち生きている人間すべてにあてはまる答えだ。
氏のメッセージはYouTubeで見ることができる。私ごときが代弁するのは畏れ多い。ご参考にその一部を貼付けておきます。
実際、私は本書を購入する前に、講義の録画をYoutubeで全部見た。見たからこそ、この講義を「手元」に「形」として「保管」しなければならないと直感した。だから、当然ながらDVD付きをお勧めする(DVDなしのバージョンも発売されてはいる)。大きな画面で、質の良い画像で見直すと、氏の語りかけがズンズンと染み込んできた。
これほど暖かく、勇気をもらえる授業を私は受けたことがない。この歴史的な最終講義を是非とも聴講していただきたい。
(蛇足ながら出版社に苦言を。下らないコピーはやめてほしい。「全米600万人が涙した」などと、こんなにすばらしい講義をお涙頂戴物にした罪は大きいと思う。私はこのコピーのせいで、本書に触れるのが1年遅れてしまったのだから。ちなみに私は涙しなかった。むしろ微笑んだ。)