50年経ってさらに輝いている 『殺す者と殺される者』
2017/09/16
「本が好き!」さんから献本いただきました。いつもありがとうございます。
ヘレン・マクロイの17作目となる『殺す者と殺される者/ヘレン・マクロイ(務台夏子 訳)/創元推理文庫』、1957年の作品です。この発表年が本書を考える上での一つのポイントとなりそうです。
まずはどんな内容か、東京創元社の宣伝文を拝借します(下手に書くとネタバレが怖いので)。
おじの遺産を相続し、不慮の事故から回復したのを契機に、大学の職を辞して亡母の故郷クリアウォーターへと移住した心理学者のハリー・ディーン。人妻となった想い人と再会し、新生活を始めた彼の身辺で、異変が続発する。消えた運転免許証、差出人不の手紙、謎の徘徊者……そしてついには、痛ましい事件が。この町で、いったい何が起きているのか? マクロイが持てる技巧を総動員して著した、珠玉のサスペンス。
2010年の今、本作品で扱われているトリックもしくはテーマはお馴染みのものでしょう。勘のよい読者なら、少し読み進めた段階で「ひょっとしてあれか?」と気づかれるかもしれません(私は後半まで騙されましたが)。しかし、このような作品が1957年に登場している。このテーマ、もちろん古くからあったのでしょうが、社会的にポピュラーになったのは1980年代以降だと思います。だから今の私たちならなるほどね、とすんなり読み進められますが、50年以上前の当時の読者は、この展開をどこまで受け入れられたのでしょうか。とても気になります。マクロイはかなり先を走っていたのかもしれません。
では今読んだらつまらないのかというと、全くそんなことはありません。事実私は相当楽しめました。作家の力量は「何を書くか」ではなく「どう書くか」ですから。前半、違和感を覚える些細なパーツをちりばめながら、徐々に読者の不安感をつのらせていきます。巧みな心理操作です。後半、198ページ以降のクライマックスでは怒涛の謎解き。一気に読者の頭を揺さぶります。ため息とともに最後のページを読み終えたら、表紙に戻ってください。『殺す者と殺される者』、ね。当時としては斬新なテーマをこれほど見事に消化している手際の良さに脱帽。
私にとっては『幽霊の2/3』に続く2冊目のヘレン・マクロイ。今回も堪能できるミステリでした。かなりお勧め。