沈まないゴムのアヒル 『なぜ人はニセ科学を信じるのか』
2017/09/16
『奇妙な論理』でひと通り疑似科学にはどんなものがあるのかを見たところで、次の疑問は、なぜそんなエセ科学を多くの人が信じるのか、ということになる。そこで今回は、その名もズバリ『なぜ人はニセ科学を信じるのか』を取り上げてみた。
著者シャーマーはアメリカのサイエンスライター、科学史家で、バリバリの懐疑論者。The Skeptics Society(懐疑派協会)の創設者であり、雑誌 Skepticの編集長をしている。アメリカのテレビ番組や講演会で懐疑論を広める行動家でもあるようだ。
本書で取り上げられているニセ科学は、超能力、心霊術、異星人、カルト宗教、創造論、ホロコースト否定論だ。シャーマーは、懐疑主義的立場からそれらのニセ科学信奉者と具体的に論戦を交わしつつ、ニセ科学を論破しようと試みる。しかし、そんな議論はもとより噛み合うはずもなく、お互いがお互いを非難し合ったまま、むなしく終わりを迎えてしまう。
本書から明らかなことは、いくらニセ科学を非難し、そんなものを信じないようにと説いたところで何ら効果は得られないということだ。著者も半分あきらめの境地なのだろうか、同じく懐疑論者のジェームズ・ランディの言葉を借りてニセ科学信奉者を「沈まないゴムのアヒル(unsinkable rubber ducks)」と呼んでいる。
このような結論は、以前『代替医療のトリック』、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』でも感じたところだ。
さてこの最初に書いた「なぜ人々がニセ科学を信じるのか」という疑問について、シャーマーはその動機付けを5つ挙げている。
- <信心は心のよりどころ>人々が不思議なことを信じる理由は、何よりも彼らがそれを欲しているからである。そうすることで気が休まるのだ。居心地がいいのだ。慰めがあるのだ。
- <手を伸ばせばとどくという満足感>不思議なものの多くは、身近な満足感をもたらす。
- <単純さ>複雑さと偶然に満ちた世界に単純な説明を与えてやれば、より簡単に人間の信念を即座に満足させることができる。
- <道徳と意義>ニセ科学、宗教、迷信などは、単純かつ直接的で、心の安まる道徳と意義の規範を示してくれる。
- <希望は決して潰えない>人間は、非現実的な約束にも飛びつこうとする場合があまりにも多く、また無知や偏狭さにしがみついたり、他者の生命を軽んじたりすることでしか幸福や満足が達成できないと信じている場合が多い。
おそらくそんなところだろうなと納得しつつ、次の機会ではまた違ったアプローチを取り上げてみたい。