精巧で強靭な組織の帝国『オスマン帝国』
2017/09/16
以前紹介した塩野女史の『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 4』で語られるヨーロッパvsトルコの戦いは、当然ながらヨーロッパ側、ヴェネツィアサイドからの視点で描かれる。
この後、『コンスタンティノープルの陥落』などでニュートラルに近づいた歴史物語が登場することになるのだが、それだけでは片手落ちになりそう。そこで『オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」』を加えてみた。
ビザンチン帝国を滅ぼし、「神罰たるトルコ人」(マルティン・ルター)、「トルコ人は、世界の目前の脅威」(フランシス・ベーコン)と恐れられたトルコ。キリスト教世界から見ればそれもやむを得ない。現代の米英だってそうだ。しかし客観的、冷静に見てオスマン帝国とはどのような国家だったのか。本書はその歴史と政治制度について(ややトルコ贔屓に)解説する。
どうやらオスマン帝国他、ローマ、アメリカなど長期繁栄した超大国には共通点があるようだ。
- 当然ながら建国当初は小国。そして当時の大国からの迫害を逃れてきた。落人。
- 将来大国になるのだから、領土拡張欲が旺盛。
- 自分たちの主義(イスラム教であれ民主主義であれ)こそが絶対という自信。
- 国を膨張させるにあたって、自国の者(被征服者)には極めて寛容。
- 最後は内から滅ぶ(すみません、アメリカは未だ滅んでません)。
この中で「被征服者に寛容」というのが重要な条件だ。オスマン帝国内では、キリスト教もユダヤ教も許された。統制されることはあっても迫害されることはない。来る者は拒まない懐の広さが大国には必要なのだ。だから日本は大国にはならない。中国も無理だ。ソビエトは短時間で解体した。
本書では、宰相制度、イェニチェリ軍団など、帝国を支えたシステムについても、その成り立ち、意義を知ることができる。手軽に読めてオスマン帝国が少し身近に感じられるようになる入門書であった。