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かけがえのない一日 『夜のピクニック』

      2017/09/16

すごい。
ひねたおじさんの心の垢がボロボロとこそげ落ちていくような感動。終わりを迎えることがこんなに惜しく思える小説はそうそうない。『夜のピクニック/恩田陸/新潮文庫』は、ほんわか暖かい極上の青春小説。

北高の伝統行事「歩行祭」。昼夜歩き続けて80kmを走破する大イベント一日間の物語り。ただひたすら歩く。親友たちと。そして僕も彼らとずっと一緒に歩くことができる。彼らの会話に耳をそばだてて。気持ち悪いおっさんだからといって、のけ者にされることはない。この臨場感、そして共感。

高校生たちの会話の大半は他愛のないものだ。つき合うのつき合わないの、あいつがかっこいい、あのこが可愛い。でも登場する高校生たちはハイレベル。とてもしっかりと自分たちのことを考えている。優しさ、一瞬一瞬を大切に生きていきたいという思いが溢れている。

もちろんちゃーんとドラマがある。西脇融の葛藤と甲田貴子の密かな誓い。二人の展開に目が離せない。後半、このシーンでジーンときてしまった。ネタバレごめんで書き写す。

「足、大丈夫?さっきから変な歩き方してるよ」
貴子は融の足を見た。
「正直、ヤバイと思う。すげえ痛い」
融は膝をさすり、素直に答えた。
「だからさ、気が紛れる話をしてくれないかな」
「そうだね」
二人は、どちらからともなく並んで歩き出した。

そして、この二人を並んで歩かせた杏奈に拍手だ。「死せる孔明、生ける仲達を走らす」だね。

最後に蛇足ながらお詫びと反省。
この作品、評判になったことはもちろん知っていたのだが、「しょせん女の子のためのお話でしょ」と敬遠していたのだ。すまぬ。今回読めたからよいようなものの、一歩間違えばこんな名作を読まずに素通りしてしまうところであった。迂闊な先入観は損をする。今更ではあるが、文句なしにお勧め。

夜のピクニック/恩田陸/新潮文庫
夜のピクニック (新潮文庫)

 - 小説, 読書