幻の不可能犯罪ミステリ 『騙し絵』
2017/09/16
ミステリを分類する際、カテゴリの一つとしてパズラーがある。正確な定義はさておき、管理人が持っているパズラーの印象は、
- 怪しげな登場人物がちりばめられていて、起こるべくして事件が起こる。
- 殺人が起きても単なる事件、謎の一つ。悲壮感はない。
- ロジカルに謎が解けることになっている(私は解いたことはない)。その典型は「読者への挑戦」。
などだ。
今回紹介する、捕虜収容所で書かれたフランス・ミステリ『騙し絵/マルセル・F・ラントーム(平岡敦 訳)/創元推理文庫』は1946年の作品。クリスティ、クィーン、カーを経て登場したことを彷彿とさせる古典パズラーミステリだ。上記のお約束をきっちり守った作品で、子供の頃彼らのミステリを読み漁った管理人にとっては懐かしさ漂う一冊だった。
物語は、後に謎の中心となる巨大ダイアモンド「ケープタウンの星」が世に出るエピソードから始まる。アフリカの鉱山からフランスへ、いかにもやっかいの種になりそうな宝石をめぐる半世紀がコンパクトに書かれているこのイントロダクションがいい。読者はすっかり「ケープタウンの星」の虜になることだろう。
そして事件、6人の警官が監視する目の前で、「ケープタウンの星」が偽物にすり替えられてしまう。不可能としか考えられない状況の中、見事に宝石は盗まれてしまったのだ。謎の科学者、いかがわしい宗教導師、抜け目のない秘書、などなど怪しげな登場人物たちが入り乱れて謎は深まるばかり。アマチュア探偵が解決に乗り出すのだが、次々と新たな事件が……。
謎が二転三転する工夫も凝らされていて、充分楽しめるミステリ。最後の謎とき(トリック)に至って、「それは無理やろう」とツッコミたくなるが、不可能と紙一重の人間操作がパズラーを成立させているのだから文句は言わない。たまに懐かしのミステリを振り返ってみるには格好の作品ではないだろうか。勢力的にオールドミステリを掘り起こしてくれる、東京創元社ならではの一冊だ。
(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社さんより献本いただきました)