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ナマコとも付き合っていける知恵 『生物学的文明論』

      2017/09/16

人間は、自分たちが思っているほど賢くない。というのも、これまで懸命に築いてきた文明(科学技術)は必ずしも人類を幸せにしているように思えないから。人間より賢いんじゃないのって羨ましく見える生物がいるから。

『生物学的文明論/本川達雄/新潮新書』は、生物学から見て今の文明どうなのよ、ってところを論じた興味深い文明論。とても穏やかな口調で、ヒステリックな文明(科学)批判でないところに好感を持てた。

まず、文明は人類を幸せにしているかについて。科学技術は人類の幸せのためにあると信じている僕の頭に、ちょっと見方を変えてごらんという本川氏の話はガツンときた。著者は、文明がいかに生物らしくないかを示すために、二つのポイントを挙げている。

  • 生物は「丸くて、柔らかくて、水っぽい」、人工物は「四角くて、硬くて、乾いている」。人間は、生物とは真逆のモノに囲まれて暮らしているわけで、それが心地よいとは思えない。
  • エネルギーを使えば時間(生き物の時間)は速くなる。文明はエネルギーを使うことで速く、もっと速くと高速化に邁進してきた。無理しすぎじゃないか?生物としての時間と社会の時間とが大きくずれてれば、そりゃストレスも溜まるだろう。

次に、人間より頭がいいって生物は、先生ご専門のナマコ。ナマコは、硬くなったり逆に融けたりする皮膚で外敵から防御している。だから動いて逃げなくていい。動く必要ないから筋肉は少ない。筋肉少ないからエネルギーを消費しない。あまり食べなくていい、砂を噛むだけで充分エネルギーが摂れる。どこでも砂があるから食べるのに困らない。これって天国じゃないですか。人間は死なないと行けないのに、ナマコは見事な戦略でこの世に天国を造っちゃったのだ。

これらの他にも「言われればそうかもな」って話がいっぱいだ。近頃何にでも付ければいいと思われている枕詞「人にやさしい」「環境にやさしい」とはどういうことなのかについても、解答が述べられている。いろんな視点で冷静に物事を見てみる。それってやはり大切なこと。

 

 - 自然科学・応用科学, 読書