どこへ行ったって、俺たちの日航デスクは悠さんですから 『クライマーズ・ハイ』
2017/09/16
『クライマーズ・ハイ/横山秀夫/文春文庫』を涙して一気に読み終えた。著者の熱い思いがこれでもかと伝わってくる力作だった。
1985年、日航機墜落事故。昇進の道からはずれたの地方新聞の記者、悠木は日航全権デスクに任命される。未曾有の航空機事故と対峙することとなった悠木は、周囲とぶつかり、闘い、そして助けられながら、自分の信じる最高の紙面を作り続ける。部署間の確執、派閥の対立に巻き込まれ、部下の渾身の記事をつぶされ、それでも走り続ける悠木の姿を見せつけられるとこちらも奮い立たずにはいられない。
怒声、罵声の飛び交う場面が多いにもかかわらず嫌みを感じさせることはない。悠木を取り巻く登場人物が、敵か味方か単純に色分けされていないからだろう。敵対する相手についてもその人生を仄めかし、共感の余地を残している。徹底的に貶めているのは白河と伊東との二人だけだ。
終盤、これまで散々辛酸を嘗めさせられたキャップの佐山が発した一言、
「どこへ行ったって、俺たちの日航デスクは悠さんですから」
に至って不覚にも涙を浮かべてしまった。まんまと著者の術中にはまった。
さて、本作のよう惨事を扱うには覚悟が要る。520人もの亡くなられた犠牲者、そしてその100倍にもなるであろう理不尽な悲しみを受け入れざるを得なかったその家族、友人の心を包み込まなければならないのだから。生半可な気持ちではこんなテーマを扱えない。著者が描く骨太のドラマは、そのハードルを充分に越えたのではないかと思う。