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脳、身体、環境は一体なのだ 『脳には妙なクセがある』

      2017/09/16

脳には妙なクセがある / 池谷裕二 / 扶桑社
脳には妙なクセがある

タイトルといい表紙デザインといい、軽い読み物だろうなと見当をつけ寝転がって読み始めたら……、途中から居住まいを正して読んでいた。

池谷先生の本は読みやすい、わかりやすいという評判がある。もちろんそのとおり。でも読みやすさわかりやすさだけじゃない。それよりもっと貴重な一面があって、池谷氏の著作はきわめて真面目なのである。脳、脳科学に向き合う態度に敬服するのである。はて、真面目とは何なのか。
本書の中で、「脳は妙に自分が好き」「脳は妙に信用する」「脳は妙に知ったかぶる」「脳は妙にブランドにこだわる」「脳は妙に人目を気にする」などなど全26のクセを披露してくれる。どれもこれもヘーッ、ホーッって感心する。なんせ巻末の参考文献には207件もの論文(それも新しい)が挙げられていて、それらのエッセンスを抽出し加工してくれているのだから。磨かれた宝石のようなものだ、面白くないわけない。でも池谷先生はもちろんそんな面白ネタなんかで終わらせたりはしない。

そんな脳のクセを踏まえて、とても大切なこと、肝に銘じておきたい啓蒙が2つある。本書の読みどころ、すなわち池谷先生の真面目さはここにある。

1点目。「自由意志」は脳が考えて生まれてくるのではないということ。何か行動を起こしたとき、「自分で判断した」「自分の意志で選んだ」というのは勘違い、錯覚なのである。では何が行動を決めているかといえば、それは無意識の「反射」。意志は脳から生まれてくるのではなく、周囲の環境や身体の状況による反射で決まってしまうのだ。何を食べるか、何を着るか、何して遊ぶか、すべて反射的に選んでいる。オレはちゃーんと自分の意志で決めているよ、とおっしゃる方。それが錯覚。そんなこと言われても信じられないかもしれないが、どやらそれが事実らしい。

反射で決まっているとしたら下手に考えたって仕方ないじゃん、テキトーに生きてりゃいいのかね。いえいえ。脳が正しい反射をしてくれるかどうかは、本人が過去にどれほどよい経験をしてきているかに依存している。どんなときにも適切な行動がとれる、そうなるためには反射力を鍛えるしかない。「よく生きる」ことは「よい経験をすること」なのだ。

自分を冷静に見れば、なるほどそうかも知れない。まったく経験のない事態に遭遇したら身動き取れないもんな。よく生きるためにはよい経験をする、このことはキモに銘じておきたい。人生半ばを過ぎちゃってるけど。若い人には一層大事な教えだと思う。

以上と関係するのだが、2点目は精神や心は脳にあるのではなくて、これも身体や環境と結びついているということ。両者を切り離しては考えられない。脳はしょせん環境が身体を通じて伝わるインプットを逆のルートでアウトプットするための処理器官なのだから。

脳単独では何の役にも立たない。入出力がなければ脳は本来の機能を担わない。そして精神、心は貧弱になる。デカルトやフロイト以来、脳を身体よりも上位に置いてしまうようになった風潮を見直すときが来たようだ。身体に何をインプットするか、身体で何をアウトプットするかに重きを置くべきなのだ。

以上、脳を知ることで「よく生きる」とは何かへと話がおよぶ。これこそ脳科学者の(広く科学者の)真骨頂なんだよなあと感激した次第。

ついでに付け加えるならば、本書で紹介されている脳の妙なクセを受け入れようと思う。「知ったかぶる」「ブランドにこだわる」「人目を気にする」などは、傍から見るとちょっとみっともない一面を持っている。だから「オレはそうはならないゾ!」などと意気込みたくなるのだが、元来無理な話なのだ。脳に逆らおうったって逆らえるもんじゃない。脳のクセを素直に受け入れて生きていくことにする。よって他人のそんな振舞をあげつらうこともしない。

かように本書は面白おかしい事例を纏っているが、どっこいコアの部分はどっしり重いのだ。

登場した著者は若い若いと思っていたが、もう42歳なのだね。今後どう発展させてくれるのか楽しみでならない。もっともっと大切なことを教えてもらえそうだ。

 - 自然科学・応用科学, 読書