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キャラクタの変遷にはまってしまった 『サイモン・アークの事件簿〈1〉』

      2017/09/16

サイモン・アークの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)『サイモン・アークの事件簿〈1〉/エドワード・D・ホック、木村二郎訳/創元推理文庫』はなかなかうまく編集された短編集だ。というのも、パズラーミステリの秀作が楽しめるのはもちろん、それ以外の部分でも楽しみがあるからだ。
作者のエドワード・D・ホックは生涯で900を超える短編を書いた超多作なパズラーミステリ作家。様々な探偵キャラクターを生み出しており、サイモン・アークはその一人。そのシリーズは、語り手である「わたし(名前不詳)」の周辺で起こったおどろおどろしい事件を、年齢2000歳で悪魔退治を自分の使命とする謎の人物サイモン・アークが解決するオカルトミステリとなっている。

本書には以下の10編が収められている。

  • 「死者の村」(1955)
  • 「地獄の代理人」(1956)
  • 「魔術師の日」(1964)
  • 「霧の中の埋葬」(1973)
  • 「狼男を撃った男」(1979)
  • 「悪魔撲滅教団」(1986)
  • 「妖精コリヤダ」(1989)
  • 「傷痕同盟」(1993)
  • 「奇蹟の教祖」(1999)
  • 「キルトを縫わないキルター」(2003)

どれも切れ味のよいパズラーで、ほとんどホック自身が作品を選択したというのもうなずける。カーをギュッと絞った感じ、といったところか。オカルトミステリとしては、以前『幽霊狩人カーナッキの事件簿』を紹介したが、それに比べてミステリとしての完成度は高い(両者の間に40年以上の開きはあるのだが)。

さて、はじめに書いたように、本書はミステリ以外の部分がけっこう楽しめるのだ。上のリストを再度ご覧いただきたい。発表年にご注目(わざわざ収録作品を書いたのは発表年を示したかったからなのだ)。サイモン・アーク・シリーズは、デビュー作「死者の村」の1995年から2008年まで54年間にわたって61作が書かれている(2008年に他界されなければもっと続いたにちがいない)。本書はそれらの中から、わりと満遍なく拾われていることがわかる。すなわち、54年間のサイモン・アーク・シリーズの変遷移を読むのに都合のよい編集となっているのだ。

たとえば、「わたし」は、一介の新聞記者から出版社の編集者、編集部長と出世し、「キルトを縫わないキルター」ではすでに引退して悠々自適となっている。時代背景も、第二次大戦後から冷戦時代を経ている。飛行機だって、大型四発機(「地獄の代理人」)から幅の広いジェット機(「傷痕同盟」)へと進歩を遂げている。

そんな中でなんといっても面白いのが、サイモン・アークの変わりようなのだ。当初は神出鬼没。しばらくすると「サイモン・アークを探し出すのは大変だよ」(「魔術師の日」)となり、「わたしは翌朝サイモンを探した。思ったほどむずかしくはなかった」(「狼男を撃った男」)となり、しだいに図書館で簡単に見つかるようになり(「悪魔撲滅教団」)、住む場所もはっきりし(「妖精コリヤダ」)、ついにはサイモンの方から連絡してくるまで(「奇蹟の教祖」)になるのだ。うーん、だんだん謎めきがなくなってくる。

サイモンは初期、黒いトップコートを愛用していてミステリアスなのだが、しばらくすると「ブルーのスラックスをはき、白いスポーツシャツ」を着ることもある(「悪魔撲滅教団」)。「傷痕同盟」に至っては、裸に青いタオルを腰に巻いて風呂にまで入ってしまうのだから、フツーのおじさんになっちゃうのだ。50年前はとても不気味でつかみ所のない男だったのに。なんせ彼は2000歳なのだ。にもかかわらず、この約50年間でこんなに人柄や生活を変化させるなんて。サイモンの変化を追うのが面白くて面白くて、ミステリそっちのけになってしまった。

(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社より献本いただきました)

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