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作者が目指し、当時の人々が愛でたのはこの姿 『誤解だらけの日本美術』

      2017/09/16

テレビドラマや映画の歴史物、時代物を観て、以前から違和感を持つというか、「なんだかなあ」と思うことがある。家や町並みがとても古めかしいのだ。現在残っているそのころの建物はそりゃ古めかしいだろうけど、当時は新しかったでしょうに。新築の家がそこかしこにあったでしょうに。じゃないと大工さんたち食いっぱぐれちゃう。

話は美術に飛ぶ。これもまたしかり。古い作品は、その古びた姿をありがたがっているように思える。わび、さびと言ってしまえばそれまでだけど、作られたときは新品だったわけで。これもまた「なんだかなあ」なのである。

ところが、そんなもやもやを解消してくれるものがあったのである。デジタル復元。そのものに手を加えるのではなく、コンピュータの中で当時の姿に復元しちゃおうというのだ。『誤解だらけの日本美術』では、その道の第一人者、デジタル復元師小林泰三氏の仕事のいくつかが紹介されている。登場するのは、「俵屋宗達風神雷神図屏風」「キトラ古墳壁画」「銀閣寺」「興福寺阿修羅像」。緻密な推察と作業とを経て復元された姿は、どれもこれも目を見はらんばかりの変貌をとげちゃうのである。

例えば銀閣寺。壁は全面が艶やかな黒漆で塗られ、庇の下には色彩豊かな斗栱が飾られる。創建当時はこうだったはず、なのだそうだ。こうやって復元された銀閣寺は、月の光を浴びるやそれを反射し、文字どおり銀の楼閣へと変貌する。
例えば阿修羅像。赤い体、そしてピンク地に緑や青の紋様が入った衣をまとう。文中の言葉を借りれば「まるでサーファーのあんちゃん」になっちまった。

「なんだかなあ」が吹っ飛んだ。わびさびをとやかく言うまえに、まずはこうでなくちゃいけないのよ。作者が目指し、当時の人々が愛でたのは、まさにこの姿なのだから。

誤解だらけの日本美術 デジタル復元が解き明かす「わびさび」 / 小林泰三 / 光文社新書
誤解だらけの日本美術 デジタル復元が解き明かす「わびさび」 (光文社新書)

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