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『ツカむ!話術』でエトス・パトス・ロゴスを学ぶ(二つの意味で)

      2018/01/27

『ツカむ!話術』はアリストテレスの『弁論術』をこれでもかとわかりやすくしたパックン(パトリック・ハーラン)による超訳だ。アリストテレスは敷居が高くても、パックンなら読める。読んでおいて損はない。たいていの人(人と話をする機会のある人)には必ず役に立つから。それも二つの意味で。

まずは惹句を紹介。

東京工業大学で大人気の白熱講義、ついに書籍化!
名門大卒芸人パックンが教えるハーバード流トーク術!!
池上彰氏との「伝える力」対談収録!!

実はすでにここにツカむ話術の最重要ポイントが織り込まれている。その種明かしは後ほど。

本題に入る前に、術を習得するにあたっての心構えが示される。それは、「自覚!自信!自己主張!」。自分を把握し、自分を信じ、自分の言いたいことをはっきり伝えよう、ということ。これは特に日本人に欠けている、日本人が苦手とするところなので、パックンは繰り返し喚起している。東工大の授業では、授業の度に学生たちに復唱させたらしい。

心構えができたところでいよいよ話術。ツカむ話術の基本中の基本は「エトス・パトス・ロゴス」。これって何かというと。

  • エトス:人格的なものに働きかける説得要素。実績、敬虔、地位など。
  • パトス:感情に働きかける説得要素。同情、愛国心、怒りなど。
  • ロゴス:頭脳に働きかける説得要素。論理、比較、比喩など。

この3要素は2300年以上も前にアリストテレスが考案して以来、西欧で後生大事に守られてきた鉄則なのだからお墨付きだ。そしてこの3要素でどれがより大事かといえば、エトス>パトス>ロゴス、の順ね。本書では、どうすればこれらの要素が向上するかも具体的にわかりやすく解説してくれているのがありがたい。この3要素――これ以外にもテクニックはいくつかあるけれど、肝はエトス・パトス・ロゴス――を的確に使いこなせば、聞き手のこころをグッとつかめること間違いなしというわけだ。

ここで、この記事のはじめの惹句をもう一度見ていただきたい。「ハーバード、池上彰、白熱講義、東京工業大学」と、エトスのオンパレードになっているでしょ。この本のつかみとしてちゃんとこの技術が使われているのね。もちろん中身でも、パックンが伝授する技術が実際に取り入れられ、ふんだんに登場する。自ら理論と実践の具体例を示して見せている。一気に読み終えてそれに気づくと、「ツカむ!話術」ってすごい威力じゃん、と思い知らされるのである。以上が役立つ意味の一つ目。

さて、ここまで来ると、おやっと思うかもしれない。これって人を騙すのにも使える術だよなと。その通りである。そもそも話術(弁論術)は、相手を自分の意に従わせるための技術なのだ。悪用しようと思えばできる。だからプラトンは弁論術を醜く劣悪なものとけちょんけちょんに貶している。でもね、このような術がある以上、知っておいた方がいい。なぜなら人に騙されないために。エトス・パトス・ロゴスに惑わされてるんじゃないかと気づくために。これが役立つ二つ目の意味だ。

繰り返しになるが、アリストテレスの『弁論術』を読める人には本書は無用だ。そんなの嫌な人はこれを読めばアリストテレスのエッセンスに触れたことになる。

(蛇足)ガチガチリベラルのパックンが、ことスピーチに関してはレーガンをべた褒め(ブッシュジュニアもちょい褒め)しているところにも好感を持った。

 - 人文, 読書