物語に奇抜さは不要だ 『いさましいちびのトースター』
2017/09/16
いさましいちびのトースター
トーマス・M. ディッシュ 著
ハヤカワ文庫SF
これを読んで、頭をカツンと叩かれたような衝撃を受けた。
話は、森の別荘に置き去りにされたトースター、掃除機、電気毛布、ラジオ、卓上スタンドが、町に住む主人を訪ねて旅をする冒険物語。移動手段を考案し、森を抜け、泥棒から仲間を救出し、町に辿り着く。
なぜこの物語が小生にとって衝撃的なのか。それは極めてオーソドックスな冒険ストーリーでありながら、楽しく読めるようとてもよく考えられているからだ。それぞれの家電製品の特徴、彼らがなぜ主人から見捨てられてしまったのかという謎とその解明、危機を乗り越える知恵と行動、旅を続けざるを得ない状況、などなど。このように書いてしまえば当たり前のことだが、それらがきちっと丁寧に構成されている。
そうなのだ。童話は(童話に限らず小説は)いかに楽しく物語るかが重要なのだ。よくできた物語に奇抜さは不要ということなのだ。本作の発表が1980年で、時代の流れはあるというものの。
なお本作は、英SF作家協会最優秀短編賞、星雲賞(海外短編部門)を受賞、ハヤカワ文庫SFで出版されており“SF童話”として流通している。