すぐびん

読書や文房具のことについて書いてるブログです

検索

現実を愛せるか 『蔵書まるごと消失事件』

      2017/09/16

蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) / イアン・サンソム(玉木亨 訳) / 創元推理文庫
蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)

予想、予感がまったく裏切られた。もちろん良い方にだ。『蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1)/イアン・サンソム(玉木亨 訳)/創元推理文庫』は、その宣伝文句とタイトルからして本にまつわる謎解きミステリかと予想したが、間違いだった。本書はミステリではない、男の“change”の物語だったのである。それも笑い所満載の。

自分ほどの者がする仕事じゃないね、ロンドンで安売り書店の店員をしていた主人公イスラエル・アームストロングは、ようやく天職と思える図書館司書の職を手にする。向かった先は北アイルランドの小さな地方図書館。ゆくゆくは大図書館の司書を夢見て。
しかしそこで待ち受けていたのは、これでもかと押し寄せる災難と悲劇だった。司書に納まるはずだった図書館は閉鎖、おんぼろバンの移動図書館運営を押し付けられ、肝心の図書15000冊が消えてしまった。服もメガネもクレジットカードも、そして自尊心までもがボロボロになる。辺鄙な田舎とそこに住む人たちを罵倒しつつ、イスラエルはもがき苦しみ、泥沼から這い出しロンドンへ帰ろうと必死になる。そしてその結末は……。

ポイントは、イスラエルがどんな人となりであるか、ということ。作者はそれを序盤で簡潔に紹介してくれている。

 あきらかに、本の読みすぎだった。そして、それこそがイスラエルの問題点だった。
本は彼をだめにしていた。彼の脳みそを凝固させていた―ちょうど、夏の日の午後に冷蔵庫からだしっぱなしにしていたクリーム、もしくはバターをいれて強くかきまぜすぎた卵みたいに。彼は子供の頃から本の虫だった。(中略)その結果、彼は知的で内気、情熱的で繊細、夢と知識にみちあふれ、豊富な語彙をもつ大人に育ったが、あいにく世俗的なことではまったく誰の役にも立たなかった。
ありていにいえば、イスラエルの期待する世界と現実の世界には大きなひらきがあったのである。

要するに、頭でっかちの頼んない男なわけだ。そんな男が現実の世界に放り込まれた。さーて、彼はどうなるのか。これが本作品のテーマだ。冒頭述べたように、これはミステリじゃない。“change”の物語である。

そんなにひねったテーマではない。いや、ストレートかもしれない。でも読んでいてやたらに楽しいのだ。登場人物たちのユーモラスな会話、くどいくらいに被せてくる文体、ホロッとさせるコメディ。私は大好きだ。あちらの宗教や社会事情に明るければ、もっと楽しめたはず。

本作はシリーズ物となっていて、すでに4作品が出版されている。その翻訳第2弾『移動図書館貸出記録2 アマチュア手品師失踪事件(仮)』が、夏頃出るとのこと。今から楽しみだ。

本書は「本が好き!」さんから献本いただきました。いつもありがとうございます。

 - 小説, 読書