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欲しいものは自分で作る! 『プラネタリウムを作りました。』

      2017/09/16

プラネタリウムを作りました。―7畳間で生まれた410万の星これを工学、彼をエンジニアというのだろう。自分はもっと凄いものが欲しい、でもそれはない、だから自分でなんとしても作る。この姿勢が貫かれていて、読んでいるこちらまでワクワク楽しくなってくる。それがこの本『プラネタリウムを作りました。―7畳間で生まれた410万の星/大平貴之/エクスナレッジ』だ。

大平氏が製作したプラネタリウム最新機「メガスター(第3機目になる)」は11.5等星まで約170万個の星を映し出す。あ、そう、と通り過ぎてはいけない。その性能はエンジニアの執念がなければ到達し得ない世界最高の、それも他に比べ物のない突出した性能なのだ。普通に商業生産されるプラネタリウムの星の数は最高位機種でもせいぜい3万個、なんと二桁違う。天の川を映すには、普通それ専用の投影機が装備されているのだが、メガスターは星一つ一つで天の川を再現できる。

プラネタリウムの星は、恒星原板に開けられた孔を通過する光で映し出される。170万個の星を映すためには、恒星原板に170万個の孔が開いているということであり、その大きさは1μm。その加工のために、著者はレーザーを購入し、高精度のXYステージを製作し、ステージ駆動プラグラムを組み、原板の表面処理やエッチング技術を実験で獲得していく。恐ろしいまでの情熱。ちなみに、最近こそ立派な場所で上映されているようだが、以前はドームも手作りだった。

さて、プラネタリウムには二つの側面がある。一つは技術(装置)、もう一つは演出だ。プラネタリウムを「上演する」というからには、その見せ方が重要なポイントとなる。私からしてみれば、170万個の星をただ映して見せてくれれば、もうそれだけで充分感動できると思うのだが、著者はさらに演出にもこだわり、それも自分でやってのける。「2021年火星への旅」という作品では、地球から火星への航行軌道シミュレーション計算で求め、金星を経由したコースで見られる星空を案内してくれるそうだ。たまらん。

本書の最後、大平氏は次の言葉ですべてを言い表し、締めくくっている。

美しいものを作り出し、より多くの人に伝える喜び。テクノロジーという絵筆で、思い描いたものを形にする喜び。これこそが、僕のプラネタリウム作りの原動力になっているのではないかと、今改めて思うのだ。

当然のことながら、プラネタリウムのことがよーくわかり、プラネタリウム解説書としてもすばらしい一冊だ。

 - 自然科学・応用科学, 読書