痛快!しかし謎はまだまだ深くて広い 『天冥の標3 アウレーリア一統』
2017/09/16
天冥の標 3 アウレーリア一統 / 小川一水 / ハヤカワ文庫JA
最初に言っておく。この怒濤の物語を読んだら第3巻も読まないわけにはいかなくなった。
というのは前回の感想。前2作でしっかり『天冥の標』の虜になってしまったわけで、今回、当然のごとく第3巻『天冥の標III アウレーリア一統/小川一水/ハヤカワ文庫JA』へと突き進んだ。これでようやく既刊分に追いつくことができた。
1作目は遥か遠い未来、地球外へと拡散していった人類世界描写で、2作目は大河の源流となる現代のパンデミックで僕の度肝を抜いた。そして本書、第3作は宇宙空間で華々しく繰り広げられる戦闘を交えたスペースオペラだ!一つのシリーズでありながら、毎回趣向を変えて楽しませてくれるとは、なんてサービス精神旺盛なんだ。
物語は1作目と2作目とにはさまれた西暦2310年、艦長サー・アダムス・アウレーリア率いるセナーセー級強襲砲艦エスレルは海賊狩りの任にあたっていた。アダムス以下乗組員は肉体改造された人類「酸素いらず」、空気のない宇宙空間でも支障なく活動できる体を持っている。
そんな彼らにが新たなミッションが与えられる。海賊が手にした伝説の動力炉ドロテアの謎を解く報告書を取り戻せというものだった。アダムスたちはエスレルを駆使しその奪還に向かうのだが……。
いやー、今回もたっぷりと愉しませてくれた。読みどころは二つだ。
まずはアダムス率いるエスレルと海賊たちとの宇宙戦闘。
数日かけて敵艦に追いすがり、秒の単位で破壊しあい、また数日かけて戦後処理を行う。それが現代の、いわゆる通常の軍艦による通常の形の対艦戦闘だった。
しかし「酸素いらず」たちは、広大な真空の宇宙空間でなんと白兵戦を挑むのだ。
このあたりの宇宙戦闘のリアリティについては以下の銅大さんの記事で詳しく考察されているので参考にされたい。
宇宙の戦闘:『天冥の標III アウレーリア一統』より、エスレル号vs海賊船
http://drupal.cre.jp/node/3137
戦闘場面を、遠く離れた場所からのエネルギーの撃ち合いに終わらせることなく、肉弾戦として描くことで、フィジカルな緊張感がグッと増している。
もう一つは当然ながら、1作目と2作目とをつなぐ懸け橋として。冥王斑を始め、全体を流れるテーマや歴史的要素が徐々に明らかになってくる。しかしまだ3巻、秘められた謎は深く広く横たわっている。
記事の冒頭、既刊分に追いつけたと書いたが、裏を返せば続巻をひたすら待たなければならなくなったことになる。第4巻はいつ出るんだろう。それどころか全10巻完結はいつになるんだろう。ジリジリしてきたぞ!