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タバコ文化を考える冒険小説 『ニコチアナ』

      2017/09/16

ニコチアナ (角川文庫)マルボロ・ライト・メンソールを燻らせながら、『ニコチアナ/川端裕人/角川文庫』を読み終えた。なかなかの“掘り出し物”であった。本書の評判を聞き知っていたわけでもない。失礼ながら、著者の名前もよく知らなかった(多数の著作があります)。通りがかった近所の書店で平積みされていたのが目に入り、幻想的で大胆なカバーの装丁、イラスト、そしてタイトルに惹かれて買ってみた。読み始めたらぐいぐい引き込まれ、不思議な世界にどっぷりはまっていた。

神秘的な手記を抜けると、そこはトウモロコシ畑だった。

電機会社の新事業企画室に務めるメイは、火を使わない無煙タバコ「ハチェット」の事業化に情熱を注いでいた。タバコから煙がなくなれば社会を変えることができるかもしれない。しかし、パートナーとなった米国タバコ会社との商品化プロジェクトをスタートすると、次々と難題が。ニコチンテロ、タバコ葉の赤斑病、謎の人物の特許。「社会を変える」の想いを胸に、メイは煙草をめぐる冒険へと足を踏み出す。その先には想像を絶する世界が……。

本書は、無煙たばこをめぐるビジネス物語、アマゾン奥地で繰り広げられる伝説の物語、この二つの物語がクロスカッティングで進行し、終盤、ある一人の人物の元で混ざり合う冒険伝奇小説である。タバコ文化を入念に挿入しつつ、めまぐるしく展開する物語には、厚み、深みがある。また、読みやすく、素直だけれど味のある文章がいい。

エンタテイメント小説ではあるが、主題である「タバコ」について、勝手ながら著者の考えを整理してみたい。
まずは、「タバコ」と「シガレット」とを別々に捉える必要がある。「タバコ」は古より呪術的儀式にも用いられた神聖な道具であり、「シガレット」は20世紀に広まった覚醒の小道具である。

本書の中に幾度となくリフレインする「シガレットは時間を微分する」というフレーズ。このフレーズ、数学的には意味不明だが(AをBで微分する、でないと)、文学的にはわかる。連続で均質な時間の流れにメリハリをつける、という解釈でよいと思う。タバコ飲みならわかる感覚だ。そこで著者は問いかける。時間を微分するためには「煙」が必要なのだろうか、と。現在の「シガレット」という形態に嵌められてはいませんか、と。そして裏を返して、「タバコってのは古い歴史があってさ、それは嫌煙権などとは次元の違う、人間としての行為なんだよ」というのがもう一つの主張。

などと勝手に読み取ったが、まずは小説。嫌煙派は無煙タバコ「ハチェット」の実現を願って、喫煙派はタバコの煙の豊かさを見直して、「タバコをめぐる冒険」を堪能すればそれで充分なのかもしれない。

 - 小説, 読書