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『砂糖の世界史』世界史の地力をつける「歴史の見方」

      2017/11/13

高校生のみなさん、世界史は必履修なんだね。老婆心ながら、世界史勉強しておいてよかったな、って思う日がいつかきっとくると思うよ。世界史に限ったことじゃなくて、学校で授業受けなくちゃならないんだったら、そのときちゃんと教わっておくのが時間を有効に使うってこと。授業をさぼりまくったおじさんの反省でもある。

で、世界史は暗記科目じゃない、ヨコのつながりを理解することが大事なんだ、ってよく耳にするかもしれないけれど、じゃあどうすりゃいいのよ、と具体的な話になるとなかなかわかりにくい。そんなときには『砂糖の世界史』なんて読んでみてはいかがだろう。よいお手本になるはずだ。

たとえば、
A:「甘いお茶、すてきよね。おいしいわ」レディ―もしくはジェントルマン―たちのおしゃべりがはずむ18世紀イギリスのティータイム。
B:大西洋を航行する奴隷船。船底までぎっしりと詰め込まれたアフリカ人奴隷たちは、脱水で、伝染病で、ときには自殺で次々と命を落とす。
まったく異質な場面にもかかわらず、この二つは「砂糖」というモノの周りに作られる一つのシステムの中でつながっている。そんな世界史の見方を披露してくれるのが『砂糖の世界史』だ。この中で、大航海時代、植民地、プランテーション、奴隷制度、三角貿易、産業革命などの用語から、コロンブス、クロムウェルなどの人名までがするするっとつながって、歴史がむくむくっと3D的に形を現してくるのだな。

本書のよいとこは、そんな近代史を解説してくれるってことにとどまらず、それを具体例として「歴史の見方」を学べること。ここには二つの見方――立場と言ってもいい――が盛り込まれている。

一つは、民衆の生活に注目して歴史を見ようとする立場。世界史と聞くと、戦争や革命などの事件史や、有名な王や政治家についての人物史を思い浮かべがち――まあそれらが中心になることが多いのは確か――だけれど、そこに現れない民衆の生活や文化やに目を向ければ、歴史も違って見えてくるんじゃないのってこと。この立場はアナール派と呼ばれている(べつに覚える必要なし)。

もう一つは、国や狭い地域ごとじゃなくて、もっと広い領域、極端に言えば世界全体でとらえる方法。さらにその中を中央・半周辺・周辺の三つの領域に分けてそれらの間の分業体制――早い話が搾取する、搾取される――から社会の動きを把握する。この立場は世界システム論と呼ばれている(これも覚える必要なし)。

これらの「歴史の見方」が、ヨコはもちろんタテのつながりも理解することになるんじゃなかろうか。

著者の川北稔はイギリス近世・近代史がご専門の歴史学者。世界システム論を日本に紹介したその分野の第一人者だ。ちなみに帝国書院の『新詳世界史B』の著者でもある。お持ちなら巻末の著者欄をご確認あれ。

本書は岩波ジュニア新書の一冊で、手に入れやすく読みやすいのが本書の売りだ。ぼくの手元にあるのは2017年4月5日で37刷(!)を重ねている。岩波ジュニア新書で一番の売れているのかも。

世界史の地力をつけるには格好の読み物だと思う。実は、うちの息子が文転浪人で、地歴から必要な1科目を世界史にするらしい。勉強ってことではなしに、気分転換、ちょっと目先を変えて見るのにいいんじゃないかと思ってこの本を息子にも勧めてみた。「歴史の見方」の一つとしてこんな方法もあるんだなと、ゆったりした気持ちで読んだ方が面白い。入試に役立てよう、などという理由で読むのはつまらない。

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