どんな本でも有効に活用する文芸書評 『文芸誤報』
2022/03/27
「へーっ、世の中こんなに文学が出回っているんだ」
というのが、書評集『文芸誤報/斎藤美奈子/朝日新聞出版』を読んでの感想。
「近頃の文学」からすっかり遠ざかっている(敬遠している?)私にしてみれば、知らない作家、聞いたこともない書名がずらずら並んでいるわけで、なんとも居心地悪い反面、新鮮といえば新鮮であった(同じような感覚は、たまたま車のラジオから流れて来たナントカベスト10みたいな番組を聴いてしまったときにも味わう)。
冒頭の「文学作品を10倍楽しく読む方法」が光っている。小説を読むとき心すべき十か条で、どれもこれもウンウンと合点がいくのだが、ここに全部書くのも気が引けるから、特に心に滲みた二つだけ紹介する。
読み手として
物差しはたくさんもて。
より多くの作品を楽しむためには、より多くの物差しを持つことが必要です。駄作・凡作と思っても切り捨てず、別の用途を考えましょう。映像作品の原作には向く、中高生の成長の種にはなる、などです。資源は有効に活用しなければなりません。
書き手として
WHATよりHOWに注目せよ。
小説にとって重要なのは「何が書かれているか」より「どう書かれているか」です。たとえ題材や筋書きは平凡でも、調理の仕方が非凡な傑作はいくらでもあります。読者に「どこかで見たお話だ」と思わせる作品は、内容ではなく書き方が悪いのです。
はい、そうします。
本書で紹介されているのは2005年以降の文学、全172冊+α。素晴しいことに、女史は上の「文学作品を10倍楽しく読む方法」をきちんと守って批評されている。有言実行なのである。意外と信用できる作品評価だと判断したので、これらの中から選って読んでみます。