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自首で埋めつくされた軽妙なミステリ 『これから自首します』

      2017/09/16

「ミステリ界のカップ焼そば」と勝手なキャッチフレーズをつけ、地味に応援している蒼井上鷹。2004年の第26回小説推理新人賞受賞以来、クイッとひねったユーモアのあるミステリを連発してくれている。カップ焼そばってのは、立て続けに摂ると食傷するけれど、時折(夜中とかね)無性に食べたくなる欲しくなる、そして一口ほおばると計算されつくした味付の虜となり、結構な満足感が得られる。そんな味わいがある蒼井上鷹の新作長編が『これから自首します』だ。

「人を殺したので自首する――」
自称映画監督の勝馬(かつま)に幼馴染みの小鹿(こじか)が告白した。殺人を犯し自首すると約束していた友人が急に翻意したのでかっとなったという。しかし、殺した相手というのが、かつて犯罪をおかしてもいないのに自首騒ぎを起こしたいわく付きの人物。今回の自首騒ぎにも何かいわくがありそうで……。
勝馬には勝馬で正直者の小鹿に自首されては困る事情があった!?
前代未聞の“自首”ミステリ誕生!

自首したやつ、自首したいやつ、自首させたくないやつ、多数の「自首」をモチーフにしたエピソードのみを絡み合わせた構成。こんな厳しい縛りを自分に課して一作書いちゃうのだから、作者の技量と苦労と努力に敬服する。犯罪者のくせに悪人だか善人だかわからなくなってくる登場人物たち。勝馬、小鹿、他の描写がやや無機的だからそう感じるのだろう。駒を奇抜に操って面白みを出すミステリなので、読者によって大きく好みが分かれそうだ。私は気に入ってます。

繰り返しになるが、執筆にあたって練りに練ったんだろうなあと想像させる込み入った構成。すごいと思う反面、ちょっと無理しすぎたんじゃないかとの印象はある。充分楽しませもらった上で言うのだが、次はスパッと切れのある短編を読みたい。

これから自首します/蒼井上鷹/ノン・ノベル
これから自首します (ノン・ノベル)

 - 小説, 読書