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笑いの中にハードボイルド 『州知事戦線異状あり!』

      2017/09/16

おお、これは予想していなかった。まさかこういう展開になろうとは。『州知事戦線異状あり!』は、ハードボイルドだったのだ!

と言うのも本作の内容は、東京創元社の宣伝文よれば、

総勢123名もの人間が立候補したカリフォルニア州知事選挙も投票日まで残り二週間。とある有力候補が、自らの当選確率を上げるため、ほかの有力候補に殺し屋を差し向けることを思いつく。個性豊かな候補者たちに、どうにも間抜けな殺し屋コンビ、暗殺を阻止しようとする私立探偵たちが入り乱れる、なんでもありの場外乱闘の行方は? 才人クックが政治をとことん笑いのめす、破天荒な犯罪小説の傑作。
―東京創元社

となっている。これを見てハチャメチャなコメディかと思って読み進めていくと、豈図らんや、私立探偵ジョン&ハーリーが活躍するかっこいいハードボイルドではないか。ハードボイルド好きの私としては、この予想外れにうれしくなってしまった。身体を張って姉と姪の命を守るジョン、それを援護する師匠で相棒のハーリー。かなり軽めではあるけれど、なつかしのスペンサー&ホークをふと思い出した。

勢よく「ハードボイルドだったのだ!」などと叫んでしまったが、本作品はとぼけた犯罪者二人組が活躍するコメディとしても楽しめる。その際の主人公はバリー&ネイルズだ。ひょろひょろの白人バリーと元NFL選手のでかい黒人ネイルズはドジな殺し屋。結構悲惨な役割を与えられている彼らなのだが、妙に可愛げがあっていつの間にか応援したくなる二人組だ。

以上4人の紹介で感じられたかもしれない。そう、彼らはとてもありがちな型にはまったキャラクターたちなのだ。彼ら以外の登場人物たちも、悪の黒幕といい、美人キャスターといい、よくあるパターンなのだ。でもそれが全然退屈にならない。一言ひとこと笑ってしまう台詞に愛嬌があるからだろう。

スピーディーな展開、ふんだんに盛り込まれたギャグ、面白くて気に入った。少々下品なところがさらに楽しさを増している。個人的にはかなりお気に入りの一冊。なぜかカーター・ブラウンを読み返したくなった。

(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社さんより献本いただきました)

州知事戦線異状あり!/トロイ・クック(高澤真弓訳)/創元推理文庫
州知事戦線異状あり! (創元推理文庫)

 - 小説, 読書