こんな単純な図式で良いのか? 『ルポ貧困大国アメリカ』
2017/09/16
貧困層へ落ちていく罠、貧困層が陥る惨状を克明に紹介した『ルポ 貧困大国アメリカ/堤未果/岩波新書』、21世紀アメリカ版蟹工船と言えるでしょうか。本書は、発刊以来話題になり、第56回日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞2009大賞を受賞しています。アメリカの現在は日本の未来、との視点で多く読まれたのでしょう。
食事問題(飢餓・肥満)、治療を受けるなといわんばかりの医療保険、兵役か高額借金かの選択を迫られる学生、刑務所ビジネス、そんな厳しい現状がこれでもかと繰り返されます。普段、日本では報道されにくいアメリカの暗部を私たちに伝えてくれたことは価値があると思います。
中でも医療貧困は酷い。医療費があまりにも高額で病気になっても医者にかかれない、本来それを補うための医療保険は高額保険料と頻発する不払いのため役に立たない。この点日本は極めて恵まれたシステムを維持してるのはありがたいことです(もちろんそれが財政を逼迫させているのですが)。見つめるべき現実を取材し伝えるという点で、貴重なルポルタージュですし、実際、怖ろしい現実がすぐそこにあるのだと認識させられました。一読の価値ありです。
ただ一方で、堤氏は勇気があるなと思います。上記の様々な現象を「行き過ぎた市場原理主義」さらには「共和党、レーガン&ブッシュが巨悪の根源」に帰着させる単純さです。ここに論理はほとんど見当たりません。人の社会なんてとても複雑で、パラメータは多いし、それらの影響の仕方もよくわからない。なのに「強欲な市場→虐げられる貧民」てな単純な図式で書いてしまうのですから、その勇気はすごい。まあそのおかげで岩波新書となり話題になったのですけれど。
見方を変えて、万民が喜ぶような社会は、そもそもこれまでのアメリカにあったのでしょうか。強制的に連れてきたあるいは流れ込んできた人たちを下層に押し込めてきた貧困大国ではなかったのでしょうか。彼らにそれなりの権利を与えてきたこと、そしてそれに使う金をもう稼げなくなったことが広範囲の地盤沈下につながったのかもしれません。よりよい社会を目指し、造り上げてきた結果、現在に至ったと考えるのが素直なような気がします。穿った見方をすれば、コンサバよりリベラルに原因があるのではないかとも。
では今後、どのようなシステムを目指せばよいのか、著者は何も語ってはくれません。自分で考えろということなのでしょう。王道楽土(?)を成立させる安定した解はないのかもしれません。ただ私が思うのは、市場主義反対、国民に金をバラまけということではないということです。本書に描かれている、ひょっとすると近い未来に我が身に降りかかる事実を知った上で、自分の身の振り方を思案しておくべきですね。
読み終えて、報道ステーションを見たあとのようなイライラ感が残りました。