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厳格なる天才 『完全なる証明』

      2017/09/16

完全なる証明 / マーシャ・ガッセン(青木薫 訳) / 文芸春秋
完全なる証明

数学の超難問ポアンカレ予想を証明した、なのにフィールズ賞受賞を辞退。それどころか世間とのつながりを断ち切り、その難問に掛けられている賞金(100万ドル)も拒否しそうな天才数学者がいる。その名はグリゴリー・ヤコヴレヴィチ・ペレルマン。奇異とも思える彼の振舞はなんともミステリアス。その謎の解明に挑む『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者/マーシャ・ガッセン(青木薫 訳)/文芸春秋』、これは読まずにはいられない。

本書は、

  1. なぜペレルマンは、ポアンカレ予想の証明を達成することができたのか?
  2. なぜペレルマンは数学を捨て、自分がそれまで住んでいた世界までも捨ててしまったのだろう?
  3. なぜ彼は賞金の受け取りを拒むのだろうか?

の3つの疑問への答えを見つけることを目的に、綿密な取材を重ねた評伝ノンフィクション。
ページを追うごとに、rigorousなペレルマンの姿が浮かび上がる。

ペレルマンは1966年生まれのユダヤ系ロシア人。この出生が彼の形成に影響を与えた大きな部分を占めている。類い稀な数学の天才をもって生まれたペレルマンは、ソビエト社会主義とユダヤ人ゆえの被差別、迫害に翻弄されることになる。
ソビエトの、上澄みを掬っては昇華させることを繰り返すエリート教育が彼の才能を極限まで高めていく。へどが出るようなユダヤ人差別に会いながらも、指導者たちが彼の進む道を切り開いてくれる。

そのようにして、彼は数学の世界に住むようになったのだろう。数学のみを信じ、数学者のみを信頼するようになる。ついに彼は、ポアンカレ予想を証明するまでになるのだが、それがあろうことか、数学に裏切られ、数学者に裏切られる仕打ちに変わってしまう。自分の閉じた世界に見放されたとき、その世界を捨てるしかなかったのだろう。

ただし、当時、数学の才に恵まれたユダヤ系ロシア人は彼だけではない。ならば、多数のペレルマンが誕生してもよいことになるが、現実は特異点としてのペレルマンただ一人が存在するのみ。彼の突出は、天才の天才たる所以だろう。

天才数学者の心の内を解き明かそうとする意欲的な一冊。原タイトルは『Perfect Rigor』、直訳すれば完全なる厳格さ、厳密さ。ペレルマンの厳格さと数学の厳密さとがかかっているのだろうな。いいタイトルだ。『フェルマーの最終定理』と同様、普段伺い知ることができない数学の世界を垣間みれ貴重な文献でもある。読んでよかった。

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