『不可能、不確定、不完全―「できない」を証明する数学の力』 数学の威力・美しさの凝集
2017/09/16
不可能、不確定、不完全―「できない」を証明する数学の力 / ジェイムズ・D・スタイン(熊谷玲美、田沢恭子、松井信彦 訳) / ハヤカワ・ノンフィクション文庫―数理を愉しむシリーズ
ビジネスマンにとって「できない」は禁句である。上司がどんな無理難題を与えられたとしても、そこで「できません」と答えたりしたら、やる気ナシ、無能の烙印を捺される。そんな現実とは一線を画すのが数学の世界だ。数学界で「できない」と言い切ることは「できる」を示すのと同様に賞賛される。
本書は、そんな「できない」ことを証明する数学が新たな世界を拓いてきたし、多大な恩恵を受けているんだよ、ということを教えてくれる読みもの。能力ないくせについつい数学本を手に取ってしまう悪い癖で挑戦してみた。裏表紙の内容紹介には、「平易でユーモラスな解説書」とあるが、なんのなんの。ユーモラスけど難しい。スタイン氏の意欲が溢れていて話題てんこ盛りなものだから、全体を通して言いたいことは分かるような気がする一方で、一つ一つを理解しようとすると難儀だ。「できない」のビッグスリー、「ハイゼンベルクの不確定性原理」「ゲーデルの不完全性定理」「アローの不可能性定理」はもちろん、幾何、連続体仮説、群論、量子力学、波と粒子、エントロピー、カオスなど、はたまた民主主義まで。到底すべては理解できなかった。
とはいえ、理解できなくても信じられるのが数学のすごいところ。信頼できる唯一の学問だからね。天才たちが長い年月をかけて構築してきた世界なのだから。これには物理学もかなわない。原タイトルは「How Math Explains The World」。そんな数学の威力と美しさが凝集された一冊。一度でものにするのは手ごわかったけれど、だから繰り返して読みたい。