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『幕末の天皇』で知る近代天皇、近代日本

      2017/09/16

幕末の天皇 / 藤田覚 / 講談社学術文庫
幕末の天皇 (講談社学術文庫)

幕末のキーワードといえば尊王攘夷。「攘夷」はおおよそ気持ちがわかるとして(TPP反対!とか)、残る「尊王」。幕末の尊王思想は主として水戸学から発生したものだが、この時期なぜ倒幕のスローガンになり得たのか、そもそもにわかに掌中の玉となった肝心の「王」はどのような状態だったのか。孝明天皇の名前くらいは聞いたことあるけれど、改めて問われてみればほとんどなにも知らないじゃないですか。ほんの200年前のことなのに。そこで『幕末の天皇』の登場である。

本書は、光格、孝明二人の天皇を主人公として江戸幕府崩壊の過程を解説。西郷、大久保、はたまた龍馬や新撰組などとは違った観点から幕末を眺めることができる、手頃にして以外に無い一冊なのだ。

中でも一番貴重だったのは、光格天皇のことを初めて知ったこと。自分の無知を全面にさらけだすと、光格天皇?誰それ?という状態だったのだ。ページをめくるたびに「ヘーェ」「ホーォ」の連続。この光格天皇はかなりすごかった。

光格天皇は1779年に即位された。前の天皇、後桃園天皇が22歳の若さで急逝。皇嗣が決まっていなかったので、当時最も新しかった宮家、閑院宮家の第六王子祐宮(さちのみや)に白羽の矢が立った。それが兼仁天皇(後の光格天皇)。御年9歳、傍系からの急遽抜擢である。その後天皇在位39年、さらに上皇院として23年、62年もの長きにわたって君臨した。ちなみにこの皇統が現在の天皇陛下まで続いている。

で、何をしたか。かつての天皇・朝廷権威を取り戻そうとした。朔旦の旬の再興(約340年ぶり)、新嘗祭や大嘗祭の儀式復古(約220年ぶり)、焼失した御所の復古的再建、賀茂社・石清水臨時祭の再興(約380年ぶり)などなど。徹底的に古代朝廷を復活させた。

崩御の後がまたすごい。天皇号と諡号とが復活したのだ。天皇号とは文字どおり「……天皇」という号(当時、長らく天皇号はおくられておらず、「……院」という院号)。それが第62代村上天皇以来、874年ぶりに復活。一方、諡号とは生前の功績を讃えて送られる称号(諡号に対するのは追号で通常は「醍醐」「白河」などの地名)。こちらはさらに第58代光孝天皇以来となる954年ぶりの復活。まさに古代律令時代の天皇が蘇ったのだ。

このような光格天皇の権威が孝明天皇、明治天皇へ引き継がれ、時代は明治維新へと動いていくこととなる。

以上、光格天皇を知ることができただけでも充分なのだが、それに加えて、本書は近代日本、近代天皇を知っておくための好著かと。松岡正剛氏が「日本人の必読書」というのもうなずける。

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