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なぜアメリカ先住民が旧大陸を征服できなかったのか 『銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎』

      2017/09/16

もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。
— ピエール=シモン・ラプラス

今年は歴史本の年にしようかしらん、などとぼんやり企みつつ、『銃・病原菌・鉄 / ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰 訳) / 草思社』を改めて手に取った。時間をおいて再読すると、いやー印象が変わるものです。

大陸の各地に誕生した文明になぜこれほどまでの差がついてしまったのか、本書はその根源を解き明かします。2000年に翻訳出版された当時すこぶる好評で、様々な企画で推薦本に選ばれました。昨年の『21世紀の資本』みたいな扱われ方かな。
中身を強引に要約してしまうと、文明の強弱、端的に言えばヨーロッパ文明が跋扈し全大陸をことごとく征服したのにはちゃんと理由があって、1万3000年前の三つの地理的環境因子、①栽培しやすい植物(穀類)が自生していた、②家畜化しやすい大型哺乳類がいた、③比較的気候の近い東西に広がった大陸だった、で決定してしまった、ということです。
著者のジャレド・ダイアモンド氏はもともと分子生理学、進化生物学者。それら専門に加え、考古学、文化人類学、言語学、などなど広い知見を駆使して文明差を考察していますから圧倒的な説得力がある。壮大な話に感心するばかりです。

ただね、今回は読み進めるうちにだんだん遣る瀬なくなってきたんですね。著者が自説の妥当性を重ねれば重ねるほど、その説得力が増せば増すほど、切なくてやりきれなくなる。なぜか。
そのいちばんの原因は、ここに書かれている説が決定論だということ。不均衡な今の世界になることは、上記三つの要因から必然的に導かれてしまう。

本書では随所にインカ帝国滅亡の様が挿入されています。旧世界が新世界を征服した例として。当時の南アメリカ大陸ではインカ文明が隆盛を極めていました。皇帝アタワルパが国を治め、日々の暮らしが営まれていた。そんな日常が、ピサロ率いるわずかなスペイン人の侵入によって一変します。皇帝は囚われ、莫大な身代金を騙し取られ、大軍は敗北。帝国は滅亡へと向かう。アタワルパの、インカの人々の無念いかばかりか。
いたたまれないのは、この滅亡が1万年以上前に決められていたということなんです。たった三つの理由で滅ぼされたなんて言われたら、インカの人々はあまりにも無念だでやりきれませんて。

ラプラスの悪魔が舞い降りてきてしまったかのようです。ラプラスの悪魔とは、ある時点における宇宙全体の状態と力とを完全に把握し解析する能力をもった仮想的な知的存在。それにとっては宇宙の中に何一つとして不確実なものはなく,その後のことをすべて見通せる。未来を完全に
予測できるまさしく魔物。この記事冒頭の引用は、1812年にその悪魔が初めて姿を見せた『確率の解析的理論』の一節です。

著者は、本の中でも環境決定論と非難されることを懸念し、それでも人類の創造性を否定しないと言っていますが、1万3000年前の環境が文明の行く末を決定したという主張に変わりはない。

こうも空想します。ユーラシア大陸の文明が進んでいたのは良として、じゃあもっともっと進んでいれば、残虐なことにはならなかったのではないか?侵略したヨーロッパ人がその地の原住民を虐殺したのは1930年頃まで続いたとのこと。スペイン人がもし1930年以降にインカと出会っていたら、インカは今も存続したかもしれない。それとも、邪魔者は排除せよ、が人類の本性で、どれだけ進歩しようとこれも必然だったのか?

せめてもの救いは、現在の在り様が1万3000年前に決定されていたと気づいたこと。ここから先の未来は変えられるかもしれません。

銃・病原菌・鉄(上) 1万3000年にわたる人類史の謎 / ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰 訳) / 草思社文庫
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 / ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰 訳) / 草思社文庫
文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

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