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『タンパク質の一生』『タンパク質とからだ』連読

      2017/11/13

ジーンときた。よもやタンパク質に感動するとは思ってもみなかった。

三大栄養素がぼくを惑わす

実は、ぼくにとってタンパク質は鬼門だった。タンパク質の姿が見えないのだ。肉を食べてタンパク質を摂りましょう、なーんて言われても、肉は肉だろが、てな具合。ヒトのからだの20%はタンパク質です、ハ?どこにあるんだタンパク質は、というレベルなのだ。

自分の勉強不足を棚に上げて言うのもなんだが、そもそも三大栄養素――炭水化物、脂質、タンパク質――というくくりがいけない。

炭水化物はなんとなくわかる。デンプンや砂糖のことだ。グルコースになって燃えてエネルギーを生み出すものだ。脂肪もなんとなくわかる。油だ。細胞膜を作ったり、エネルギーになったり、腹の周りにブヨンと付いたりするやつだ。

それに比べてタンパク質はイメージが浮かばない。どうも得体が知れないのだ。世の三大なんとかは同列のものが並べられていてたいてい納得できるのに、三大栄養素はどうも合点がいかない。イギリスの医師、プラウトが作ったこの概念、栄養学的には有益だったけれど、生物学的には人を惑わすものだった。

ああ、一気呵成にぼやいてしまった。

で、いつまでもぼやいていちゃいけないと思って、とりあえず関連本に当たってみた。使ったのは『タンパク質の一生』『タンパク質とからだ』『大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学』『タンパク質はすごい!』。するとどうだ。タンパク質の姿がおぼろげながら見えてきた――いちばん効いたのは『タンパク質の一生』だ――ではないか。そうしてタンパク質の素性がわかってくると、律儀なタンパク質に感謝感激し、さらに進むとその気持ちは畏れに変化した。

タンパク質の素性は折鶴のようなものだ

上にも書いたように、わたしたちヒトのからだの20%はタンパク質である。どこにあるか。細胞の中にうようよいる。さまざまな姿かたちを取って細胞内をうごめいている。なんせタンパク質は少なくとも2万種ある。DNAに刻まれているタンパク質のコード数から導かれる数字だ。でも何万種あるのか、何十万種、何百万種あるのか、ほんとうのところはわからない。DNAで決められたのは2万種だが、それにいろんなものが後からくっつくからだ。方や、あるはずの2万種すべてわかっているわけでもない。

そんなタンパク質はリボソームというオルガネラ(細胞小器官)がせっせと作り出している。DNAを写し取ったmRNAの指示に従いアミノ酸をポッポッポッとくっつけてポリペプチドを生産していく。ポリペプチドはパタパタパタと折り込まれてタンパク質となる。木の繊維が紙になり、紙で鶴を折るようなものだ。折鶴がタンパク質ね。

タンパク質が生命なのか

出来上がったタンパク質は働くべき場所に運ばれていく。折鶴は仕事しないけれど、タンパク質は働きものだ。主な働きだけでも、①からだの構造を支える(コラーゲン、エラスチン、カドヘリンなど)、②化学反応を触媒する(α-アミラーゼなど)、③遺伝子発現を制御する(RNAポリメラーゼなど)、④細胞増殖・分化・恒常性を維持する(神経ペプチド、インスリン、EGFなど)、⑤筋肉を収縮する(ミオシン、アクチン)、⑥物質を輸送する(キネシン、トランスフェリンなど)、⑦外的因子から生体を防御する(免疫グロブリンなど)、などがある。何でもかんでもタンパク質。要するに、生きるということはタンパク質の活動することとほとんどイコールなのである。タンパク質は生命そのもの思えてくるのである。

畏怖の念

ところがその一方で、タンパク質は単なる分子だ。アミノ酸がつながって構造をもったもの。炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、元素はたったこの5種類だけ。いくらアミノ酸がたくさんつながった巨大で複雑な分子だからといって、それらは化学反応しかしない。化学反応に意図はない。なのに個々のタンパク質は目的をもって動いているように見える。生きているように見える。化学反応が生命になっているのである。生命を営むタンパク質と炭素水素がつながったタンパク質とがどうして結びつくのか。もう不思議を通り越して神秘である。畏怖の念。

生きているということは、化学反応が生み出した錯覚なのかもしれないなあ、などとあらぬ妄想を抱いたりしてしまう。

別の見方をすれば、生物進化はタンパク質進化なのではないかと思ったりする。次々とポリペプチド、タンパク質が合成され、たまたま何かしらうまくいったものだけが生き残る。死屍累々のタンパク質の山を乗り越えて、幸運にも生き残ったタンパク質が次々と溜まってシステムになった。

こうなると、RNAワールド仮説よりもプロテインワールド仮説を支持したくなる。RNAなんてなくったってタンパク質はできるだろうからね。ペプチド結合さえ起こればいいんだからね。うまくいったタンパク質を記録しておくためのドキュメントとしてRNAができたと考える方が順番合ってるよなと思うわけだ。

当然研究者たちはそんなことご承知で、タンパク質ぜーんぶをひっくるめてその機能や相互関係を解明しようと邁進している。タンパク質の総体をプロテオーム、その理解をプロテオミクスという。どれだけのタンパク質があるかわからない、さらに多くのタンパク質は他のタンパク質と相互作用しているから、タンパク質の全貌を解き明かすなど頭がくらくらする研究である。ゲノム解析だけでも人間の知識は新しい次元に入ったのだ。さらにプロテオミクスが加われば、生命の神秘を記述してくれる日が来るかもしれない。来てほしい。

さて、こんなとりとめもないことを考える楽しみとは別に、せっかく「三大栄養素」のタンパク質について勉強したので、一つ実生活に役立てることにした。それはラクトフェリンを摂ること。ラクトフェリン、働いてね。
ラクトフェリン森永ヨーグルト

タンパク質の一生-生命活動の舞台裏 / 永田和宏 / 岩波新書
タンパク質の一生―生命活動の舞台裏 (岩波新書)合成から解体まで、タンパク質の一生をドラマチックに解説した快著。タンパク質の働きをあえて人や社会に例えて、感覚的にわかるように配慮されている。タンパク質アレルギーの特効薬になった。

タンパク質とからだ-基礎から病気の予防・治療まで / 平野久 / 中公新書
タンパク質とからだ - 基礎から病気の予防・治療まで (中公新書)プロテオミクスの成果は日々更新されているので、本書は4冊の中での最新情報。プロテオミクスの現状に詳しく、研究者たちはすごいことやってんだなという雰囲気が伝わる。

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学 / デイヴィッド・サダヴァ、他 / 講談社ブルーバックス
カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学 (ブルーバックス)図も多くかなりのレベルまで網羅されているが、いかんせん教科書なので味気ない。索引が充実しているので辞典として重宝する。

タンパク質はすごい!-心と体の健康をつくるタンパク質の秘密(知りたい!サイエンス) / 石浦章一 / 技術評論社
タンパク質はすごい! ~心と体の健康をつくるタンパク質の秘密 (知りたい! サイエンス)ここに挙げた4冊の中ではいちばん平易なのでとっつきやすいかもしれない。ゆえに理解を深めるにはこれだけでは物足りないかな。

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