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死んでるようには生きたくない 『グラスホッパー』

      2017/09/16

グラスホッパー / 伊坂幸太郎 / 角川文庫
グラスホッパー (角川文庫)
伊坂幸太郎のほとんどの作品には、異常な悪人が登場する。狂人と言ってもいいかもしれない。『オーデュボン』の城山、『ピエロ』の葛城、『ラッシュライフ』の神崎、『アヒルと鴨』のペット殺したち。本作『グラスホッパー/伊坂幸太郎/角川文庫』にはそのような悪人三人、鯨、蝉、槿、が登場し、それらが絡み合う。背景となる人物たちも寺原親子はじめ不愉快な輩が揃っているから、とうてい気持ちの良い小説ではない。語り手の一人、鈴木、はなんとかこちら側に留まっているようで、それがせめてもの救いとなってはいるが。もちろん伊坂のことだから物語はとてもよくできている。語り口には圧倒的なうまさがあって、引き込まれるように読み進めてしまう。けれど、これまで味わってきた爽快感は得られなかった。

本書のキーワードに一つに『罪と罰』があると思う。作品の中では、鯨が唯一読む小説として描かれている。なるほど、伊坂作品の底流にはドストエフスキーがあるのかと今頃気づいた(全くの勘違いだったりして)。

小生の場合、『罪と罰』と聞いて真っ先に思いついてしまうのが高村薫の『照柿』だ。『照柿』は、著者が現代日本版『罪と罰』を目指したから、人が異常になっていく過程をネチネチと書き込んでいた。一方、伊坂の場合はその過程を省略し取り込んだ上でキャラクタを作っているように思える。
さて、上の推察が当たっているかどうかはさておき、そう感じさせてしまうくらい、『グラスホッパー』はどんよりしている。

 - 小説, 読書