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かなりマジメな爆笑本 『延長戦に入りました』

      2017/09/16

延長戦に入りました / 奥田英朗 / 幻冬舎文庫
延長戦に入りました (幻冬舎文庫)

『延長戦に入りました/奥田英朗/幻冬舎文庫』は、34編もの意表をつく視点で語られるスポーツ小文が収められたエッセイ集。このあとがきで、著者は、

いずれにせよ本書は、マジメな人たちにとって落とし穴のような本である。
責任はとらないので、あしからず。
その代わり、冗談の通じる人には最良の爆笑本だと思っている。

と、おっしゃっている。が、ご本人の言に逆らうのも失礼だけれど、これちょっと違うんじゃないの、と言いたい。
確かに、「レスリングのタイツはなぜ乳首を出すのか」や「ボブスレーの前から2番目の選手は何をする人なのか?」などでは、「ネ、面白いでしょ?」的な茶々を前面に押し出している。しかし、方や妙に考えさせられる文章も散らばっているのだ。

例えば、
「スポーツの語り草と一人歩きする伝説」では、巨人軍の名投手、沢村栄治にちょっと待ったをかけている。1934年の日米野球、大リーグを相手に演じた快投は本物だったのか?押し進めて、沢村は伝説になるほどの大投手だったのか?この手の神話伝説を頭から鵜呑みにするなという警告なのである。

「大衆の国産ヒーロー願望と皮肉な現実」では、外国人を排他的に取り扱う様をあぶり出している。日本プロ野球の史上最高打率を記録したのは誰なのか?東京ドーム、福岡ドームで第1号ホームランを放ったのは誰なのか?サッカーW杯での初ゴールを呂比須が決めていたらどうなったのか?勝手に付け加えるならば、私としてはなぜランディー・バースが55号ホームランを打てなかったのかに今も噴飯しているのである。

このように見ていけば、それぞれのエッセイが、茶々を入れているようで至ってマジメなことに気づく。全編をとおして、爆笑の衣をまといながらもジワッと感動したり、フムフムと考えたりするポイントを突いているのだ。『伊良部シリーズ』に通じるものが浮かび上がってくるのである。

奥田英朗の本

 - 小説, 読書