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気づけば怪しげな幻想界『ナイフ投げ師』

      2017/09/16

ナイフ投げ師 / スティーヴン・ミルハウザー(柴田元幸 訳、奥定泰之 装幀、牛尾篤 装画) / 白水社
ナイフ投げ師

装幀とタイトルに惹かれて手にした『ナイフ投げ師/スティーヴン・ミルハウザー(柴田元幸 訳、奥定泰之 装幀、牛尾篤 装画)/白水社』、中身はもっとすごかった。読んで正解。こんな目眩く小説に出会えたことは、なんと幸運なことか。

本書は、アメリカの現代作家スティーヴン・ミルハウザーが精緻に紡ぐ12編の幻想が収められた短編集。なのだが、短編という気がしない。一編一編の濃度というか密度というか、とても濃いのだ。省けるところは大胆に簡素な記述で一気に時間を駆け抜け、ここという箇所ではこれでもかと綿密な描写を積み重ねていく。読み出したらあっという間に深みにはまってしまう。

作品の幾つかを白水社のページから引用して紹介しておこう。

「ナイフ投げ師」……ナイフ投げ師ヘンシュが町に公演にやってきた。その技は見事なものだったが、血の「しるし」を頂くための、より危険な雰囲気が観客に重くのしかかる。
「夜の姉妹団」……深夜、 少女たちが人目のつかない場所で、性的狂乱に満ちた集会を開いているという。その秘密結社を追いかけた、医師の驚くべき告白とは?
「新自動人形劇場」……自動人形の魔力に取り憑かれた、名匠ハインリッヒの物語。その神業ともいうべき、驚異の人形の数々を紹介する。
「協会の夢」……「協会」に買収された百貨店が新装開店する。店に施された素晴らしき趣向の魅力は尽きることなく、私たちを誘惑する。
「パラダイス・パーク」……1912年に開園した伝説の遊園地を回顧する。遊園地は度肝を抜くような、過剰な施設や出し物によって大いに人気を博すが、そこには意外な結末が待っていた。

各作品を読んだ印象をどう表わせばよいやら。たとえばこんな感覚だろうか。

読み始めると、見知らぬ街にポンと放り出される。僕の前に道がズーッとのびている。先は薄暗くてよく見えない。そっちに行っちゃ危ないよ、と本能は命令するのだが、見えない力に押されるように足は動き出す。しばらく歩いていくと、いつの間にか辺りの風景が変わっていた。まったく気づかないうちにである。もう足は止まらない。どんどん奥へと進む。風景はさらに変貌を遂げ、そこにはあり得ない世界が確実に広がっていた。

中でも「新自動人形劇場」、「パラダイス・パーク」は僕のお気に入り。ちなみに、「パラダイス・パーク」は小林恭二の『ゼウスガーデン衰亡史』を思い起こさせた。ぜひミルハウザーの幻想を堪能していただきたい。

 - 小説, 読書