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ナショナリズムの基礎知識 『民族とネイション』

      2017/09/16

民族とネイション―ナショナリズムという難問 / 塩川伸明 / 岩波新書
民族とネイション―ナショナリズムという難問 (岩波新書)

「ナショナリズム」と聞くと、僕の場合「危険」という臭いが漂っているように感じてしまう。「きな臭い」という方が近いだろうか。その原因は、暴力と結びつけてしまうからかもしれない。しかしそれ以前に、「ナショナリズム」とは何者なのかをよく知らないからじゃないのか?得体の知れないものは恐怖を引き起こすから。まずはその正体を知ることだ。ということで『民族とネイション―ナショナリズムという難問/塩川伸明/岩波新書』に行き当たった。読後、かなりスッキリする一冊だった。

ナショナリズムって難しい。左なのか右なのか、リベラルなのかコンサバなのか。民族主義とは違うのか、「愛国心」とは別物なのか、なぜ暴力を連想してしまうのか、などなど。そのあたりから、本書は徹底的にわかりやすく解説してくれる。

まず第I章では、ナショナリズムをはじめとする用語の定義を丁寧に解説する。これがありがたい。言葉の意味を整理しておかないと話が混乱する。僕もこの時点で戸惑っていたのだ。
そもそもナショナリズムは極度に多様な現象なのである。様々な政治イデオロギーと自在に結合するものなのだ。
また一方で著者は、民族の分布範囲と国家領域との関係から4つの類型を提示する。

  1. ある民族の分布範囲よりも既存の国家の方が小さく、複数国家分立状態である場合(例:19世紀のドイツ統一、イタリア統一)
  2. ある民族の居住地域が他の民族を中心とする大きな国家の一部に包摂され、少数派となっている場合(例:ポーランド)
  3. ある民族の分布範囲と特定の国家の領土とがほぼ重なっている場合
  4. ある民族が広い空間的範囲にわたってさまざまな国に分散居住している場合(例:ユダヤ人)

これが実にわかりやすかった。

続く第II、III、IV章では、近代から現代までの歴史に即して具体的なナショナリズム問題が多く取り上げられる。ほぼ世界中を網羅しているところがすごい。これを読むだけで、近代以降の国家がどのように誕生し、どのような変遷をたどってきたか、その全体観を勉強することができる。そのような実例を通して、ナショナリズムがどのように発生し伝播、拡散していったかが見えてくる。佐藤優は神学、フリードリッヒ・シュライエルマッハーからナショナリズムを論じたが、近代ナショナリズムの生成について説いてはいるものの、生成以降の拡大や伝播についてはよくわからなかった。その点を本書は充分に補ってくれている。

現在も様々ところで火種となりそうな「ナショナリズム」が何者なのかを知っていれば、妙な不安を少しは払拭できるのではないか。僕にとって、本書はそのための基礎力をつけるには恰好の入門書だった。そして、今の世界がどのようにして在るのかを知るためにも。

 - 社会, 読書