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冒険家の業がここにある 『空白の五マイル』

      2017/09/16

この21世紀になって、未だ人類が踏破できていない場所が地上にある。そんな話を聞いただけで、「エーッ」て感じでもう興味津津なのである。冒険家たちの間で「空白の五マイル」と呼ばれるその人跡未踏の地はチベットのツアンポー峡谷にある。もちろんGoogle Earthで簡単に見ることができるその地帯は、長年、冒険者達を退けてきた。そんな秘境に単独で挑戦を試みた日本人が記した冒険記、それがその名もズバリ『空白の五マイル/角幡唯介/集英社』だ。

著者は根っからの冒険家だ。20世紀末の冒険を探し求め、ツアンポー峡谷に狙いを定める。ツアンポー川がヒマラヤ山脈の東端に流れ込んだ所に位置する絶壁に挟まれた峡谷だ。1924年以来、幾多のアタックが試みられたが誰も踏破することはできなかった。想像を絶する大滝の存在、さらにはそこが桃源郷なのではないかとささやかれるようになる。この辺の歴史に関しても、本書では詳しく解説されており、本書に深みを与えている。特にカヌーイスト武井義隆氏の最後には胸打たれる。

角幡氏はツアンポー峡谷に2度挑戦している。もちろんその際のサバイバルの状況が克明に記されていて壮絶さがひしひしと伝わってくる。崖を上り、崖を下り、冷たい雨を凌ぎ、ダニの攻撃に耐える。1日かかって100mしか登れないこともあるという。そして歩く、歩き続ける。命を賭けた冒険だ。快適な場所で文字を追っている僕でさえ心拍数が上がりっぱなしだった。まいった。

本書の中には、冒険家自らが語るからこそ迫力のある言葉が多く詰まっている。
極論をいえば、死ぬような思いをしなかった冒険は面白くないし、死ぬかもしれないと思わない冒険に意味はない。
その死のリスクを覚悟してわざわざ危険な行為をしている冒険者は、命がすり切れそうなその瞬間の中にこそ生きることの象徴的な意味があることを嗅ぎ取っている。
冒険は生きることの意味をささやきかける。だがささやくだけだ。答えまでは教えてくれない。
カッコよすぎる。
冒険家というのは特別な人間であるとつくづく知らされる。サメやマグロは常に泳ぎ続けなければ死んでしまう。呼吸できなくなるからだ。冒険家は冒険し続けなければ死んでしまうんだろうな。

カッコイイ職業は何かと問われたら、僕は躊躇せずに宇宙飛行士と冒険家と答える。僕にとっては遠い、いや違う世界の人達だ。本書を読んで、この考えが正しいことを改めて確信した。

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む/角幡唯介/集英社文庫
空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む (集英社文庫)

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