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環世界、動物は固有の自然の中で生きている 『生物から見た世界』

      2017/09/16

生物から見た世界 / ユクスキュル、クリサート(日高敏隆、羽田節子 訳) / 岩波文庫
生物から見た世界 (岩波文庫)

動物が環境の客体なのではなくて、動物が主体となる環境がある、という視座を与えてくれるのがユクスキュルの『生物から見た世界』。原著は1934年刊、80年前の著作だ。生物学、動物行動学の古典的名著と評されているということで一度読んでおきたかった。

動物がとるいろんなふるまいを見るとき、世界を一意的にとらえるのは正しくないよ、動物はそれぞれ独自に知覚し行動し意味づけする世界、環世界、に浸って生きているんだよ、そんな新しい世界の散策に導いてくれる。

例えば冒頭に紹介されるマダニ。
マダニのメスは、木の枝先に登って待ち伏せ、手頃な哺乳類が下を通るやその上に身を投げ、生き血をたっぷり吸う。その様子は、旨そうな動物を見張ってそら来たと飛び移っているように見えるがそうじゃない。だいいちダニは目がない。哺乳類の皮膚腺から漂い出る酪酸の臭いを感知し、その臭いを嗅いだら飛び降りる。そこで鋭敏な温度感覚でなにか温かいものの上に落ちたことがわかる。あとは触覚によってなるべく毛のない場所を見つけ、獲物の皮膚組織に食い込み、暖かな血液をゆっくりと自分の体内に送り込む。酪酸の臭いと暖かさと毛の感触、それがダニの世界のすべて、すなわち環世界。

かように動物が知覚する世界はそれぞれ固有なのである。当然人間だって例外ではない。世界(自然)の全てを掌握しているように偉そうにしているけど、例えば聞き取れる音の周波数はおおよそ20Hzから20kHz、見える光の波長はおよそ400nmから800 nmに限られている。人間が知覚できる一瞬の長さは1/18秒。人間も自信が知覚できる環境の一部を切り取って自然として認識しているにすぎない。見えていない光、聞こえていない音、判別できない時間があふれているのに。

あらゆる生物に対して「きみたちに世界はどう見えているのかね?」という問いかけを忘れてはいけない。そして人間の環世界に動物たちを引きずり込むのは間違いだ。そんな目を開かせてくれる。この話が近々紹介するつもりの『野生の知性』に続きます。

 - 自然科学・応用科学, 読書