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震災に立ち向かう信念 『呼鈴の科学』

      2017/09/16

呼鈴の科学 電子工作から物理理論へ / 吉田武 / 講談社現代新書
呼鈴の科学 電子工作から物理理論へ (講談社現代新書)

3月11日、あの震災から3年、テレビでは関連番組が止めどなく流れている。情を揺さぶろうとするものが多い。吉田先生は、それらとは異なる立場から震災を心に留め、立ち向かっている。そんな氏の志の発露が本書である。

著さの信念は何か。自然災害から逃れることができない日本にとって重要な対策は、張り巡らされたセンサ・ネットワークで国土のわずかな変化も見逃さず診断する「日本列島のインテリジェント化」だと説く。そしてそれをあまねく広めるためには、センサや電子工学の何たるかを心得た人が多く必要で、ほんの少しの知識と粘り強い精神を多くの人に持ってもらいたいと願っている。特に未来を担う若者に。

本書は、そんな未来を委ねる若者が育つ種をまこうと、ファラデーの『ロウソクの科学』にならい(導入や結び、全6講といった形もトレース)、呼鈴を題材に電磁気学をたんねんに解説している。方位磁石やコイルをきっかけに、電子、電流、磁石、電子回路、果ては相対性理論や量子論まで踏み込んだ意欲作だ。電磁気学をとおして、物の理の考え方をも身につけて欲しい。

著者の言う、科学に向き合う態度には共感できる点が多い。例えば、

名前を知っていることと、その本質を理解していることは全く別の話である
専門家は、「簡単なことを難しく考える」のが仕事なのです。
何もかも分かったように簡単に話す人は、専門家ではありません。
「抽象的だからこそ分かりやすい」というのが本当のところです。

などなど。

著者の心意気におおいに賛同しつつ、さてその試みが成功したかとなると…、どうだろう。とてもわかりやすい部分がある反面、足りなさも感じた。大きく2点。

一つめ。図が小さくて見づらくわかりにくい。たくさんの実験装置を駆使して電気、磁気を解説しているにもかかわらず、その装置がなにやなんやらわからない。せめて半ページを使って丁寧な説明をつけてもらいたかった。

二つめ。前半は懇切丁寧で、電磁気学苦手のぼくでもじっくり考えられるように描かれている。それが後半(特に第5講以降)は早足で駆け抜けていく。何がなにやら、もう理解が追いつかなくなった。

300ページほどの新書で表現するのは制約だったのではないか。不完全燃焼。吉田先生には『オイラーの贈物』や『虚数の情緒』などのように思う存分の大部が必要だったのではないか。読後、せっかくの構想がもったいないなあ、と感じてしまったのである。

 - 自然科学・応用科学, 読書