現代絵師、先達の画業を解く 『ヘンな日本美術史』
2017/09/16
河鍋暁斎、月岡芳年、川村清雄をご存知でしょうか。あまり馴染みがないですよね。このお三方、いずれも幕末に生まれ明治にかけて活躍した 絵師、日本画家(川村清雄は昭和まで存命)。そしてその共通点は何かというと、現代日本画家山口晃氏が、『ヘンな日本美術史』の中で推す明治画壇の三傑なのです。黒田清輝でも横山大観でもなく、この三名。
山口氏はこの三人をどう評しているか。
まず河鍋暁斎。
スタンダードな画の描ける、スタンダードな描法を持った人であり、王朝風の細密からユーモラスな大津絵様まで、他流にも通じた「一人オールジャパン」とでも言うべき、近世日本絵画の保管庫みたいな存在でした。
つぎに月岡芳年。
近代日本画に関して、自転車に乗れない風を装うワザとらしさを観る事があると申しましたが、同じ透視図法を取り入れながら、芳年にはその風がありません。
さいごに川村清雄。
彼の為した事は、当時の画壇では理解できなかったと思います。彼は西洋画の最初期の現地習得者であると同時に、日本で最初期の西洋画の破壊者でもあるのです。
そんなところを教えてもらうと、河鍋暁斎「大和美人図」、月岡芳年「当勢西優妓」、川村清雄「梅に雀」など、なんともはつらつとした画で、実に良く見える。
この三人を選びだした理由、そのキーワードは「内発性」なのですね。西洋画の大波に飲み込まれることなく、自らの内から湧き出る意欲を、練磨した手法で表現するさまに惹かれるのだと思います。ただ残念なことに、彼ら三人ともが画壇の主流から外される。山口氏は、
彼らのような、内発性の高い反応を残した人を美術史の真ん中に据えられなかったことは極めて不幸で、その理由をよくよく考えてみなければなりません。
と、ちょっと恨み節をこぼしたりするのです。
こんな調子で、『ヘンな日本美術史』は鳥獣戯画から洛中洛外図、雪舟、応挙、そして明治画壇まで、千年にもわたる、味わい深い絵画論を繰り広げる。随所にハッとさせられる意見が盛り込まれています。今の人が観ればなんかおかしいなあと感じる画であっても、その時代の人にはまったくそんなことはない。描かれるべくして描かれた画なんですよと解き明かしてくれるんですね。
美術を味わうには多くを観、勘を養うのがベストです。違和感にビビッとくる直感の精度を上げる。内発性、欺瞞を感じ取れる力を身につける。ただしこれは生半可にできることではなく、氏のように画に全霊を打ち込まねばなりません。
ベターな方法は、知識を得ること。美術に疎いぼくはこちらでいくしかない。日本の画で真っ先に思いつくのは北斎や写楽、といったレベルですからね。そんなぼくには山口氏の解説がいちいち腑に落ちてぴったりくるのです。
今年はじっくり日本美術を鑑賞するのもいいかしらん。